宇宙とかSFとかで思い浮かぶものを書き出した話
「そろそろだ」
「じゃあ、周辺警戒を始めます」
運転席に座った男に、助手席の者が応じる。
どちらも宇宙トラック業者。
その名の通り、宇宙トラックと呼ばれる貨物用宇宙船で荷物を運ぶ者達だ。
彼らはその中でも単独で動いてる、個人事業主になる。
全長200メートルの貨物用宇宙船(通称:トラック)が彼らの商売道具であり城だ。
そのトラックの中で、彼らは警戒にあたる。
といってもやる事は単純。
宇宙魚群探知機をそのまま使った警戒用レーダーを眺めるか、自分の目でトラックの窓から外を眺めるかだ。
警戒するといっても、個人業者で出来るのはこれくらいしかない。
その成功率はさして高くは無い。
だが、それでも怠るわけにはいかない。
出没する宇宙海賊、宇宙ギャング、宇宙バンデットといった連中にやられない為には。
宇宙に人類が進出して既に何百年。
拡大した勢力圏を支える為に、長大な流通網が形成されていった。
高速を越える速度で進む宇宙船や、瞬時に遠くまで飛ぶ転移/ワープ。
そういったものを利用して、広大な宇宙に人類は半とを築いていった。
だが、拡大する勢力に流通網がおいつかない。
所々にほころびがある。
流通網────街道とも呼ばれるそれらの警備も含めて。
警備がゆるければ、そこに襲いかかるならず者も集まる。
この時代においてもそれは変わらない。
比較的簡単に宇宙船が手に入るというのも、悪い意味で影響してしまっている。
現代日本の感覚で言えば、ちょっと値の張る自動車を買うような。
その感覚で小さめの宇宙船が購入できるのだ。
悪党共が行動に移すのも当然だろう。
各国政府も何もしてないわけではない。
取り締まりのために活動はしている。
だが、広大な領域を守るには数が足りない。
組織の整備は進めてるのだが、領域拡大においついてないのだ。
主要な幹線などはしっかり守られてるが、比較的重要性の低い地域になると手つかずという事がほとんどの場合も多い。
自然発生的に無法地帯が出来上がり、そういうところでは宇宙海賊そのほか諸々が暴れている。
世は宇宙世紀末の様相を呈していた。
いずれはこの事態も収拾する。
それは誰もが思っていた。
確かに今は宇宙海賊とその類似品が暴れている。
だが、治安機関の整備もめざましく、いずれは宇宙海賊共も一網打尽にされるだろうと見られていた。
だが、そうなるまでにはまだ時間がかかる。
それが数年か十数年か、数十年か。
あるいはもっとかかるのか。
それはさすがにはっきりとはしない。
だからこそ誰もが不安を抱きつつ今を生きていた。
そんな時代の宇宙トラックである。
荷物を運ぶのも命がけである。
先に述べたように、主要幹線を進むならばまだ良い。
襲われる可能性は皆無と言って良いのだから。
だが、そうでない地域に足を踏み込む場合は注意が必要になる。
下手すれば、荷物と一緒に命を奪われるのだから。
ただ、うまみが無いわけではない。
危険の見返りに割り増しの料金を得られる可能性もある。
無事に運び届ける事が出来れば、普通より多めの報酬を手に入れられる。
それを狙って、危険を承知で仕事を請け負う者も多い。
この宇宙トラック業者も、そんな命知らずな連中だった。
「どうだ?」
「今のところ問題無し」
「こっちも」
「星しか見えないよ」
周囲を警戒してる者達の返事を聞いて、運転席の男は頷く。
「そうかそうか。
でも気を緩めるなよ」
どこから宇宙海賊がやってくるのか分からない。
注意をおこたるわけにはいかなかった。
「作業ロボットも動けるようにしておけ」
万が一の場合の指示も欠かさない。
こうした警戒が無駄になるならその方がいい。
襲われずに済んだという事なのだから。
だが、そうなるかどうかは運次第だった。
実際に襲われる可能性というのはそれほど大きくは無い。
毎度毎度事件が起こっていたら、そんな所に人はよりつかなくなる。
そうなったら流通どころか、住み着いた者達すら出て行く可能性がある。
そこまで言ってしまったら、宇宙海賊も暮らしていけない。
なので宇宙海賊などもある程度は動きを絞っている。
派手に動けばその分捕まる可能性も高まるからだ。
その為、恐れられてるほどに海賊との遭遇例は少ない。
この宇宙トラックの者達も、実際に遭遇した事は一回か二回だ。
なので、警戒はしつつも、今回も無事に到着出来るのではないかと思っていた。
その願いを無粋な探知音が潰していく。
「出たぞ!」
宇宙魚群探知機にあらわれた反応。
それを宇宙トラック内の通信機で伝えていく。
隣に居る運転手相手なら必要ないが、トラック内各所にいる者達にはこれを使わねばならない。
それを通して状況を聞いた者達は、即座に対応をはじめていく。
各銃座の対空機銃が稼働を始め、作業用小型艇が動き出す。
作業用小型艇─────作業用腕のついた人型に近いこれの手には、機銃座のものと同等の銃器が握られている。
こうした武装は危険地帯で生きる者達の必需品になっていた。
こうでもしないと宇宙海賊などに対抗できないからだ。
合法的なものかと言われれば悩ましいが、現状を顧みて政府も黙認している。
しなければ政治家の首が退任請求や次の選挙で飛ぶからだ。
また、官僚も法規制を盾に行動しようとすると、そうした政治家によって首が飛ばされる。
おかげで辺境・危険地帯の武器保有率はうなぎのぼりだ。
そして、そこまで武装をさせる必要性を作ってる宇宙海賊だが。
こちらも相応の武装をしている。
旧式ではあるが艦船用の小型砲を搭載している。
当たれば装甲を施してない一般宇宙船はひとたまりも無い。
それに加えて獲物を見つけるための各種探知機を搭載。
これを搭載兵器と連動させる事で高い命中率をたたき出す。
更に、宇宙トラックの方と同じように作業用小型艇に武装をさせて展開させる。
幸いにもやってきたのが一隻だけ。
それが宇宙トラックにとっての幸運だった。
もし二隻以上でこられたらひとたまりもない。
抵抗もろくに出来ずに捕らえられただろう。
「まだツキがあるな」
運転手である社長がわずかな光明を見いだす。
それも間違いでは無い。
通常、複数で動くのが宇宙海賊だ。
確実に相手をしとめる為に。
それが一隻だけで出てきたのだ。
まだ逃げ出せる可能性がある。
上手くいけば撃退出来るかもしれない。
とはいえ、そこまで高望みはしない。
なんだかんだ言って荒事になれてる連中だ。
戦って勝つ可能性はそれほど高くは無いだろう。
なので、安全圏まで逃げる事が出来ればそれで良い。
今、宇宙トラックが現在地は宇宙警備隊の行動範囲外だ。
だからこそ狙ってきたのだろう。
なので、警備隊の活動範囲にまで逃げ込めればよい。
そこまで行けば、宇宙海賊とて引き下がるしかない。
さすがに宇宙警備隊まで相手にして立ち回るような根性のある海賊は少ない。
皆無でないのが恐ろしいところだが。
宇宙トラックの搭乗員としては、今回出てきた海賊がそういう肝っ玉のある奴でないのを願うばかりだ。
「だいたい、あと二十分ってとこだな」
警備隊の行動範囲までの時間である。
それまでもてば、生きて帰る可能性がある。
だが、そうでなければ、海賊にいいようにされるだろう。
とてつもなく長い二十分になりそうだった。
襲いかかる海賊を退けながらだと、それは永遠にも思えるほど長く感じられる。
「おい、みんな。
腹をくくってくれ」
運転手の声に宇宙トラックの乗組員はつばを飲み込んでいく。
初手、攻撃は宇宙海賊から行われた。
腐っても艦砲である。
射程距離はそれなりにある。
それが宇宙トラックに向けて放たれた。
しかし、宇宙トラックも負けてはいない。
危険な場所に飛び込んでいくだけあって、それなりの装備は揃えている。
今も飛んでくる砲弾に向けて、迎撃機能が動き出していた。
攻撃への防御手段は、大雑把に装甲と防御用力場、そして迎撃装置になる。
装甲はいわずもがな。
敵の攻撃をはじく外皮である。
防御用力場は、船体そのものを覆うエネルギーの幕になる。
効果は高いが、必要になる設備が大きく、一般で使うのは難しい。
迎撃装置は、飛んでくる砲弾などを文字通りに打ち落とす設備だ。
このうち宇宙トラックが搭載してるのは、迎撃装置のみである。
装甲は重量が増えるので重要部分以外は用いてない。
防御用力場は、これを手に入れて維持するだけの技術も金もない。
結果、比較的導入しやすい防衛手段として、迎撃装置を導入する事になった。
その迎撃装置は、飛んでくる砲弾を宇宙魚群探知機でとらえていく。
魚群探知機といえども、その性能は低くは無い。
効果範囲は確かに軍用の探知機には劣るが、一般で使うなら十分な性能を持っている。
砲撃戦の距離くらいなら余裕で対応できる。
宇宙海賊が放った砲弾を捕捉し、情報を火器管制装置に送っていく。
その情報をもとに、対空機銃が動き、狙いを定める。
それらは飛んでくる砲弾めがけて射撃を開始した。
放たれた砲弾が次々に迎撃されていく。
どれだけ弾速があっても、迎撃装置の対応にはかなわない。
宇宙トラックに届くこと無く次々に撃破されていく。
だが、それで宇宙トラックの者達は安心したわけではない。
こうなる事くらいは宇宙海賊だって分かってるはずなのだ。
絶対に次の行動に出てくる。
そう思ってるうちに、第二弾がやってくる。
「後ろから何かがやってきます」
宇宙魚群探知機を見ている助手が報告する。
「おそらく宇宙小型艇」
「なら、こっちも出すか」
言いながらまたも船内通信。
「今な、海賊が小型艇を出してきた。
追い払ってきてくれ」
出撃命令とは思えないほどのんきな言い草である。
それでも準備を終えていた作業用小型艇は、宇宙トラックから飛び出していった。
海賊の目論見は簡単だ。
砲撃で対空機銃の矛先を集めてる間に、作業用小型艇で接近。
近距離から脅しをかけるつもりだったのだろう。
やり方としては悪くは無い。
だが、それくらいは宇宙トラックの方もお見通しである。
同じような作業用小型艇を出して応戦する。
接近してくる宇宙海賊に向けて、宇宙トラック側も対抗していく。
数は両者とも二機ずつ。
それらが戦闘可能距離に入って動きを素速くしていく。
格闘戦が開始されていった。
作業用小型艇。
その名前に反して、姿形は人型をしている。
全高4メートルの人体に、巨大な推進装置を背中につけたような格好だ。
その為、前後幅も4メートル程になっている。
その小型艇が、推進装置を駆使して機敏に動き回り、互いの背後・死角をとろうとする。
また、手にした機銃で敵を狙っていく。
海賊の動きはなかなかのもので、上手く宇宙トラック側の小型艇をとらえようとする。
荒事を繰り返す中で腕を上げていったのだろう。
ところどころに鋭いものがある。
しかし宇宙トラックの方も負けてはいない。
宇宙海賊の攻撃を避け、確実に接近していく。
それは荷物の積み卸しなどで培ったとは思えないほど的確なものだった。
それもそのはず、この小型艇の操縦士も相応の練習をこなしてきている。
その為に、軍の元操縦士に報酬を出して訓練をしている。
これくらいしてないと、荒っぽい場所での活動は出来ない。
そうして手に入れた戦闘用の技術で、海賊側を圧倒していく。
いかに場数を踏んでいても、適切な技術を身につけてなければ恐ろしくはない。
よほど天才的な才能がなければ、ある一定のところで技術の上昇は止まる。
専門的な知識や技術の有無は、こういうところにあらわれてくる。
その差が宇宙海賊と宇宙トラックの運命を分けた。
宇宙トラック側の小型艇が宇宙海賊の小型艇をとらえる。
容赦なく放たれた機銃弾が小型艇に直撃する。
それを推進部に受けた宇宙海賊の小型艇は、次の瞬間派手に爆発した。
その瞬間に勝負は決した。
戦力差が一気に二倍に開いたのだ。
まだ生きてる方が無事ですむわけがない。
それから少しして、もう一機の宇宙海賊も同じ運命をたどった。
残った宇宙海賊は、それを見ても宇宙トラックに接近してくる。
状況は一気に不利になったのだが、それが分からないのか。
分かっていても退くわけにはいかないのか。
何にせよ宇宙トラックにとっては迷惑な話でしかない。
不利とみて逃げてくれれば、宇宙トラックも安心できたのだが。
「しょうがねえな」
運転手は覚悟を決めた。
「このままあの海賊を倒すぞ。
機関砲、撃てるようにしておけ」
宇宙トラックの持つ最大最強の兵器の準備をする。
海賊の艦砲に比べれば威力は弱いが、それでも当たれば船体を破壊する事は出来るだろう。
海賊船の全身が装甲で覆われてない限りは。
海賊の砲撃を退けながらも、宇宙トラックは反撃の準備をしていく。
その前に、宇宙トラック側の小型艇が海賊船に近づいていく。
宇宙トラックが接近する前に、少しでも叩いておくためだ。
もちろん、撃沈なぞ狙わない。
それが出来るだけの火力はない。
だが、あちこちにある機銃座などは破壊できるはずである。
それらに向けて銃を撃っていく。
宇宙海賊の攻撃手段が次々に潰れていく。
そこに宇宙トラックの機関砲が炸裂する。
打ち落とされる宇宙海賊の砲弾と違い、宇宙トラックの機関砲弾を撃墜する手段は無い。
やはり、それほど装甲も施されてないようで、宇宙海賊船はあちこちを破壊されていく。
もとになってるのが、一般販売されてる宇宙船なのだから仕方が無い。
これが軍用船のおさがりだったらもっと違っていただろうが。
かくて襲いかかってきた海賊船は、逆に宇宙トラックに撃破されていく。
最初の段階では優位であったはずなのだが。
作業用小型艇での戦闘が明暗を分けた。
そこで海賊側が勝っていたら、結果は逆になってただろう。
だが、場慣れしていても技術の無い宇宙海賊と、少しでも腕を磨いた宇宙トラック側の差は大きかった。
そして投入できる戦力の差が出てもなお攻撃を続行したのが間違いだった。
そこで退散してれば、宇宙海賊も死にはしなかっただろうが。
無謀とも思える突進をした時点で、宇宙海賊の破滅は決まったようなものだろう。
宇宙トラック側からすれば、ありがたい事であるが。
「それじゃ、海賊の連中をふんじばっておけ。
船も曳航して宇宙警備隊のところへ持ち込むぞ」
運転手の指示に従って搭乗員が動いていく。
海賊船に乗り込む事はしないが、外部から武装を全て潰し、曳航用の綱もひっかけていく。
船内にいる海賊には、そのまま動かないよう呼びかけて。
なお、エンジンは一応潰しておいて、逃走が出来ないようにする。
こうしておけば、抵抗される事もない。
もし攻撃をしかけてくれば、その場で曳航用の綱を外すだけである。
慣性に従ってそのまま宇宙のどこかへと旅立っていく事になるだろう。
そんな船から飛び出しても、ここは宇宙である。
最寄りの人類居住地までの距離ははてしない。
そんな所に、宇宙服だけで飛び出してもたどり着く事は出来ない。
船内に脱出用の小型艇でも残ってるなともかくだが。
それらしい物も、機関砲で撃ち抜いている。
宇宙海賊達が生き残るには、このまま黙って曳航されるしかない。
そんな面倒もあったが、宇宙トラックは無事に目的地に到着。
荷物を問題なく届ける事が出来た。
宇宙海賊に襲われても荷物に破損がないのは奇跡的である。
おかげで宇宙トラックは代金の他に信用も稼ぐことが出来た。
また、海賊を突き出した事で報奨金も手に入れる事が出来た。
こういった連中を取り締まるために、人手の足りてない警備隊などは賞金を出している。
それを稼ぐ事で生業としてる者もいるほどだ。
宇宙トラックはそれが目的で動いてるわけでは無いが、もらえるものはありがたくもらっていく。
消耗した弾薬などを補充しなくてはならないのだから、金はあるにこしたことはない。
また、より強力な装備を設置する事で、安全性をあげる事も出来る。
そうなれば、危険な場所での活動も、もう少しは快適になるはずだ。
「どうにか黒字か」
損益計算をしていた運転手は胸をなで下ろす。
社長も兼ねるこの男は、どうしても金の出入りに敏感になる。
今回、幸いな事に出費がおさえられてるから黒字になってくれた。
しかし、もし宇宙海賊の攻撃が当たっていたら、こうはならなかっただろう。
宇宙トラックの修理でかなりの金が吹き飛ぶ事になる。
そうならなくて良かったと心から思った。
とはいえ、
「……もうちょっとどうにかしないと駄目か」
今回の襲撃であらためて宇宙海賊対策を考えていく。
防御にしろ攻撃にしろ、船体の改造は必要になる。
だが、それには金がかかる。
出来れば出費は避けたい。
しかし。
(命あっての物種だしなあ)
死んでは元も子もない。
今後も安心して商売を続けるなら投資は必要だ。
「しょうがないか……」
今後も商売を続けるなら、安全性の確保は避けられない。
稼ぎの良い危険な地域での行動を中心にしていくなら。
(稼げるのも今のうちだけだし)
いずれ宇宙海賊などは駆逐される。
そうなれば、割り増し料金などとれない。
それがとれるうちに可能な限り稼いでおきたかった。
となれば、選ぶ道は一つだけ。
(また赤字一歩手前か)
設備投資が一段落するまではこんな自転車操業が続くだろう。
それでも、やはり稼ぐためと自分に言い聞かせていく。
SFってこういうもんじゃなかったかな。
こういうのでいいんじゃねえかな、と思いながら。
これくらい気楽でいいんじゃないの?
そう思うんだが。
あと、作品タグ・キーワードで何か適切なものがあればなと思ってる。
なかなか良いのが思い浮かばない。