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第一話 ~何やってんだよ、あんた~


「何やってんだよ、あんた」


後ろを振り返り、声の主を見ると同じ黒の学ランを着た男が、パンパンに膨れたコンビニの袋を持ちながら立っていた。コンビニ袋は恐らく、学校にある購買のコンビニエンスストアで買ったのだろう。

染めただろうと思われる燃えるのような赤色の髪。整った顔立ちで世間一般的に"イケメン"に該当するだろう。遠目からでは分からないが、恐らくカラコンだと思われる青い目をしたツリ目だ。

青い目は僕の方へと視線を送っていた。睨んでいるというおまけ付きで。


「何を……。今から命を絶とうとしている」


「はぁ?」


質問に対して、答えを言うと青い目をした彼は呆れたような声を出した。

そして、しばらくお互いに見つめ合うと彼は座り込んでしまった。


「お前、昼飯は?」


突然の言葉にフリーズすると、彼は溜め息を零す。


「昼飯は食べたのかって聞いてんの」


「……食べてないけど……」


彼は何故、そんな事を聞くのだろうか。初対面で、相手は命を絶とうとしているのに。普通止めないのか?

訝しげに思っていると、彼は居心地が悪そうに髪を掻き乱した。


「何も食べずに死ぬのは寂しいだろ。最後の晩餐くらい食ってからでも良くね」


「………」


何を言っているんだろうか、彼は。別に僕が何かを食べていようが、いなくても彼には関係ないはずなのに。

しばらく呆気に取られていると、彼は痺れを切らした。


「あーもう! いいから早く来い!! 一緒に食べるぞ!」


いきなり大きな声を出されて、驚いた僕は咄嗟にフェンスを降りてしまった。

彼のいる、屋上に。


屋上の硬いアスファルトの床に足を付けると、不安感が込み上げてきた。

この世界に足を付けている事への、不安。早く、早く行かなきゃいけないのに。


そう思い、フェンスの方に戻ろうとしたら、急に手を掴まれた。


「お前は何回も言わないと理解出来ないのか?」


いつの間にか、すぐ側に来ていた彼は僕の手をしっかりと掴み、さっきまで彼が座っていた場所まで連れていかれた。


彼と一緒に彼につられる形で座ると冷たいアスファルトの体温が伝わってきた。

春先だが、まだ寒さが残る屋上はやはり寒かった。


「ほら、ブランケット。すまんが床の冷たさは我慢してくれよ、下に敷くレジャーシートを忘れたんだ」


コンビニの袋に入っていたのだろう、彼から渡された青色のブランケットは手触りが滑らかで暖かそうだった。

彼と同じように膝にブランケットを被せると、幾らか寒さがマシになった。寒い事は変わらないが。


「おにぎりとパン、どっちが好きだ?」


コンビニ袋から取り出された物は鮭と書かれたおにぎりと焼きそばパン。それを両手に持ち、差し出された。

選べって事か…。正直、今にでもフェンスの方へ行きたいのだが、すぐに彼に止められるだろう。今は彼に付き合って、時期に終わる昼休みだ。彼が午後の授業に行った後に命を絶とう。


「じゃあ、おにぎり」


「ん」


おにぎりを手に取ると、彼は自分の手に残った焼きそばパンの袋を開ける。

そして、彼は焼きそばパンにかぶり付きながらコンビニ袋から二つ、牛乳を取り出した。


「丁度、購買のおばちゃんに一つおまけして貰ったんだ」


そう言って牛乳を差し出してきた。牛乳を貰うと彼は、もう一つの牛乳の方に取り付けられていたストローをパックに刺し、飲んだ。


「……購買の人におまけを貰うことなんて、本当にあるんだな」


「ん? まぁそうだな。俺いつも朝早くに購買に行くから、暇つぶしで結構、購買のおばちゃんと話すんだ。そんで、仲良くなって、おまけなんかも稀に貰ったりする」


「ふーん。そういうものなのか」


袋を順番通りに開けて、取り出したおにぎりを一口、食べる。

パリパリッと音を立てながら口に含むと、海苔と米の味がした。

久々に食べ物に"味"を感じながら、食べて飲み込む。


「美味しいか?」


「うん。久々に米の味を味わった」


「なんだお前、普段米とか食べないのか?」


「……最近の主食はゼリー、だったかな」


僕が正直に答えると彼は雷を受けたかのような表情をした。


「お前! ゼリーばっかとか倒れるぞ!」


「…………それ、さっき死のうとしてた人に言うこと?むしろ、それで死ねたら楽だね。わざわざ高い所に登らなくて済む」


まぁ、倒れるまで待つほど、僕はのんびり屋じゃないけどね。


「ていうか、聞かないの? 僕が死のうとしてた理由」


「いや、聞かれたくないだろ? だから、無理に聞いたりしねーよ」


「そっ、か」


てっきり、聞いてくるものだと思っていた。嫌、でもそういう人はいるよな。話してくれるまで待ってくれる人。

____あの人も待ってくれる人だった。誰よりも優しくて、誰よりも理解してくれて、誰よりも頼りになった。

でも、もういないんだ。


「ねぇ」


「ん?」


これは自殺とか関係ない。これを彼に話して、自殺を辞める気なんて毛頭ない。ただ、聞いて欲しかった。誰でもいいから。僕に興味が無くてもいいから。

僕が唯一、信頼した大人の話を。


「少しだけ、聞いて貰えるかな。僕が信頼した人の話を」


僕が少しの間だけでも"嘘"を言わなくても良い場所を手に入れられた話を。

まだ主人公の名前が出てきていないことに危機感を感じている作者です。きっと次回こそ、出てくれることでしょう。恐らく。

ここまでお読み頂き、ありがとうございました。少しでも楽しんでいただけたら幸いでございます。

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