外敵⑥
リュカはハーレムから離れてみて、自分が思った以上にハーレムに馴染んでいたのだと思った。
子供が生まれる前だからかもしれないが、「早く帰りたい」と思う程度に、自覚を持って執着している。
相も変わらず、ハーレムというものには忌避感がある。
リュカの感覚では、男女は一対一が自然で、一対多数は不自然だと。自分の中の常識がハーレムを否定している。
毎晩抱く女性を変える事も、あまり楽しいとは思えない。
リュカの中から嫁が一人だけの家庭というものへの憧れがなくなったわけではない。
しかし、嫁たちと一緒に暮らすうちに家族として認めつつあったのだ。
生まれてくる子供を拒否する気にもならない。父親になる事への不安が無いわけではないが、それ以上に期待をしている自分がいた。
安易に切り捨てられないほど、情が移りつつある。
矛盾しているが、嫁が一人の家庭を望みつつ、四人いる嫁たちと離れて暮らす事を拒否する。それがリュカの偽らざる心境だ。
都合が良い事を望んでいると分かっていても、そう思ってしまったのだから仕方がない。
自覚はすれど、反省はできなかった。
ただ、リュカは出先で聞いた貴族の家庭の話を聞いて思う所があった。
貴族の家庭は愛情で結ばれたものではなく、家の都合で結ばれた契約なのだと。
愛と結婚は同じではないのだ。
思えば、リュカに愛を捧げているのはディアーヌ一人。
他の四人――今では三人は、リュカを愛してなどいない。それは今も変わらない。
ならば愛のある家庭はディアーヌと作って、他の嫁とは心の距離を離し、貴族らしい夫婦の付き合いで……。
そこまで考え、リュカはそんな都合の良い話は無いと苦笑した。
結局、他の女を抱く以上はディアーヌを蔑ろにしていることに変わりはない。
仕事で抱いているだけだと言ったところで、どの口でディアーヌに愛を囁けばいいというのだ。
愛は、独占することを望む。
ハーレムは最初から男女の愛を否定している。
それに、だ。
リュカはディアーヌを家族であり大切にするべき女性とは思っていても、愛しているかと問われれば首を横に振る。
義務で人を愛せるほど、リュカは器用でなかった。
心から愛していると言えなければ、見せかけだけの愛を囁くなど女性を物扱いしている侮辱に等しい。
行動が伴わないうえに語る愛が「自分の都合」から出てきたニセモノでは、何の意味もない。
これは自分の心の問題で、存在しない理想を追っていくような、みんなで上手く妥協できるところを探す果て無き旅路だ。
だから外敵など居らず、ただ自分の中にある納得を拾い集めねばならない。
それは、外にいる敵と戦うよりも、ずっと難しい事だった。




