シャルロットの末路①
結婚するはずの双方の意見が一致し、シャルロットはそのまま国に帰った。
リュカは帰り支度を手伝いこそしなかったが止める様子もなく、それは他の国の姫たちも同じであった。
シャルロットは一通り言いたかったことを吐き出し終えた事と、リュカに対する恐怖からリュカに何か言う事も無く出て行った。
それでも最後に他の姫たちに挨拶をしに行ったが、門前払いを食らい、ディアーヌたち他国の姫とは顔を合わせられなかった。
その事にシャルロットは憤慨していたが、彼女に向けられる周囲の目は冷ややかであった。
リュカも多少は想像がついていたが、ディアーヌたち4人はそれ以上に分かっていたのだ。
彼女がこれからどうなるのかが。
アヴァロン王国が周囲からどのようにみられるのか。
最強騎士との婚姻を、個人的感情で破談にしたことの意味。
シャルロットは、その事を国に戻ってから学ぶことになる。高すぎる授業料を払って。
「何故戻ってきた、このバカ娘が!!」
アヴァロン王は、シャルロットの祖父にあたる。
普段は政務で全く顔を合わせておらず、血縁と言っても国王にとってシャルロットは愛情を注ぐ対象ではなかった。
いや。そもそも血縁だからといって無条件に愛情を注げるほど、王族という立場は軽くなかったのだが。
そんなシャルロットがリュカの嫁候補となったのは、容姿と立場と本人のやる気を重視したからである。
リュカとの婚姻の話は皇帝が言い出す前から打診しており、候補者の選定は早い段階で行っていた。
全ての姫に婚約者がいるものの、リュカとの婚姻関係を結ぶのであれば些細な事。国王としては万難を排して挑むつもりであったが、シャルロットは元々扱いが悪かった事もあり、婚約者もそこまで立場が強くない。婚約解消をするのが簡単だったのだ。
その不都合の無さに加え、本人がリュカの婚約者に名乗りを上げたのだから、それを認めたのだ。
そのやる気の理由の中に殺された世話役の話があったことも確認していたが、仇討ちをしてくれたリュカに感謝しているから嫁ぎたいと願ったのだろうと判断された。
少なくとも、婚約者として送り出されるまでのシャルロットは、周囲を騙せるほどにちゃんと擬態していたのである。
問題を起こし帰ってきたシャルロットに、国王は激怒した。
国の意向を受けて任じられた婚約者の立場をいきなり放棄したのだから当然だ。
この場合の婚約者の立場は公的な仕事として考えられ、勝手に捨てれば責任感の無さから責められるべき案件だが。
それ以上に、アヴァロン王国がこの先受けるであろう国難への不安から元凶に正当な怒りを向けているのである。
その国難は政治に対し少しでも知識があれば予想できることだった。
「お前は、自分が何をしたのか分かっているのか!」
「何って。そりゃあリュカと結婚せず縁を結べなかったのは悪かったわよ。でも、それだけじゃない。
あんな奴の力なんかなくてもこれまで上手くいっていたんでしょ。なら、何の問題もないわ」
「そんな単純な話ではない!!」
リュカとの婚約破談はあまりにも大きな問題であったため、国王は側近と特に信頼を置く護衛騎士以外を連れず、シャルロットを問い詰めていた。
だが、問い詰められる当の本人は事態を全く理解しておらず、悪びれもしない。
「この先、他の国と揉め事が起きた場合、どうなると思う?」
「はぁ? 今まで通りでしょ? 小さいところは潰して、大きいところとは戦線を維持しつつ、妥協と和解を引き出す。それだけじゃない」
祖父と孫の体を取っての会話であるため、シャルロットの口調はとても雑だ。それを聞く護衛騎士は殺意が湧くが、まだだと思い、怒りを押さえつける。
シャルロットはリュカとの婚約破談を「得られるべきものを得られなかった」程度にしか考えていない。
だから大した事ではないと、軽く扱う。
だが、アヴァロン王にしてみればそんな単純な話ではない。
一番わかりやすい、最悪の予想を口にする。
「ならば。その揉めた相手にあのリュカが肩入れしたとしても、同じことが言えるのか?」
その言葉を聞き、シャルロットの動きが止まった。