外敵②
婚姻外交は帝国でも一般的な行いであり、周囲の「話の通じる他国」へはだいた人を送り込んでいた。
マリアンヌの叔母もそうやって送り出され、相手の国で公爵相当の貴族に輿入れをしていた。
その国とは正式な外交が結ばれているため、敵国と組んで攻めてくるというのは外交的には非常識で、あり得ない行為であった。
最低でも宣戦布告や叔母の返還が行われるのが慣例であり、常識である。
そういった事をしてから戦争を仕掛けているなら、戦後に再び外交ができる国として多少の手心が加えられる。リュカが呼ばれることも無い。
こういった慣例破りは相手の顔に泥を塗る行為であり、下手をしなくても徹底的に叩かれることになる。
帝国は威信にかけて相手国を殲滅するだろう。
何か事情があるのであれば、話は別だが。
リュカに命じられたのは、まず相手国『キーノカナール国』の首都制圧である。
同盟国ではないが、友好国のはずがいきなり敵対するなど、普通はあり得ない。
方針転換をした何らかの事情があるはずで、それを探り出すための下地を作るために武力制圧をするのだ。
船で移動し、リュカが敵兵を封殺してから兵士が都市を制圧。
これがリュカを運用する戦争において、基本的な流れとなる。
船で、兵士と移動するのだ。何日もかけて。
リュカは久しぶりに、長期間、ハーレムの外で寝泊まりすることになった。
リュカがハーレムに戻らなくなって数日。
嫁たち四人はものすごく暇になっていた。
「作戦の予定は、二十日。
リュカ様が戻るまで、まだ十日以上先ですね……」
ディアーヌはすぐに音を上げた。
ここ最近はずっと一緒だった想い人がいきなり居なくなり、精神的に参ってしまった。
「ディアーヌさん、元気を出して下さい。
これからも同じようなことはあります。慣れるしかないんですよ」
それを慰めるのは、マリアンヌではなくセレストだ。
今回のリュカ不在はマリアンヌの母国が関係しているため、普段は調整役の彼女でも発言しにくい状態となっていた。
マリアンヌに責任は無いが、それでも場の雰囲気が彼女を責めるかのようであった。
発言権以前のコレットは、リュカの不在でも安定している。
妊娠しているのはコレットもそうなのだが、特に変わった様子はない。
コレットはただ、リュカの戻りを静かに待つのだった。




