出産祝い②
皇太子妃と王妃。
予定を聞こうと、長い間待たされた挙句やはり会えないと言ったところで咎められる事のない存在である。
権力者は下位の者をわざと待たせ、ぞんざいに扱う事で己が上位者というのを相手に分からせるものなのだ。
逆に言うと、それをしないというのは、それだけ相手に敬意を払っているという事。
リュカの扱いは最上級の客人をもてなす為のものだった。
皇太子妃や王妃の扱いは、国によって違うし、時代、配偶者との関係でも変わる。
ある国の妃殿下は政治にも口を出す国王の懐刀だったのだが、次の妃殿下は「ただ子を産み、国民に向けて笑っていればいい」という扱いをされたこともある。
酷い場合は、一番の仕事は「国に不和の種をまかない、浪費をしない」と言われることすらある。
風習、国の風俗。
環境、取り巻く貴族の情勢。
資質、本人の才能と気質。
伴侶、配偶者との関係。
他にも要因はあるが、主にこういったものに左右されている。
女性がでしゃばることを嫌う国がある。
貴族の力が強くその意見を無視できない状況がある。
剣を取りたくとも体に恵まれない人がいる。
伴侶との仲が悪い、仮面夫婦がいる。
どんな立場の人間にでも言えることだが、良い人生が送れるかどうかはほとんど運でしかなく、本人の努力が及ばない部分はある。
しかし、立場が上になればなるほど、本人が置き去りにされるのはよくある事だ。
妃とは、あまり幸せになれるものではない籠の中の鳥である。
ディアーヌの母、皇太子妃の『クレール』は政治に一切関りを持たない人だ。
観劇を好み、芸術を嗜む女性である。ただ、そう言った行動は実家を含む全て国内の貴族たちから距離をとり、政局に悪影響を及ぼさない為である。
コレットの義理の母、王妃である『ソフィ』は政治に口を出す人だ。
国王が慎重で動きが重いのに対し、このソフィは果断な判断を下すことが多い。
政治に強く関わるのは後妻である事からコレットの実母と比較され続けたので、彼女のように振る舞うしかなかったという面もある。
二人とも自分が責任ある立場であることを理解しており、人としての常識や親子の愛情などはあるが、それ以上に皇族・王族としての自覚が強い。
そんな二人は。
「娘は、うちのディーはちゃんとやっているのかしら?」
「コレットの様子はどうでしょうか? その、喉は治せないものでしたか?」
なかなか押しの強い『母親』としての面をリュカに見せていた。
リュカがここに来たのは贈り物の相談であったが、そちらの話は横に置かれている。
これまで情報が制限されていた事、自分から会いに行く許可が出ない事で暴走しているわけではない。“貴族に馴染めないリュカの相手”という名目で、飾らない自分をさらけ出しているだけである。
多少の計算はあるが、リュカは彼女たちにとって、「政治の絡まない私的な付き合いの相手」として今後も重宝されることになる。




