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反面教師たち⑧

 セレストは厩舎での出来事を他の三人にも説明した。

 馬に髪を噛まれそうになったところを助けてもらった、と言う話はしていない。

 それを言えばやっかみの対象になる可能性が高く、「上手くやった」と思われるのは好ましくないからだ。


 嫁の中の誰かがリュカと仲良くなることは良い事だ。

 だから四人は連携してリュカを繋ぎとめようと画策しているわけだが、それでも面白くないものは面白くない。

 リュカが好きかどうかは別にして、成功した誰かというのは嫉妬の対象となるのだ。


 この四人は助け合う仲間であったが、同時にライバルでもある。

 祝福しつつも喧嘩もする間柄なのだ。

 ある意味、とても仲が良いのであろう。



「へぇ。それはそれは。楽しんできたようですわねぇ」


 一通り説明を終えたセレストだが、そこにディアーヌがいかにも面白くないという表情でセレストに絡んだ。

 淑女としては零点だが、公の場ではなく私的な集まりであれば咎めるほどの事でもない。


 ないのだが、先ほどまでの説明で「楽しんできた」と言われる要素が無い。

 そのため、セレストは困惑の表情を浮かべる。


 助けを求めるようにマリアンヌの方を見るが、彼女も苦笑いをして助けようとはしない。

 コレットは相も変わらず、我関せず、だ。


「気が付いていなかったようですが、説明をしている最中、無意識に笑っていましたよ。

 ディアーヌさんが指摘しているのは、“思わず笑顔を浮かべる、説明に無い何か”の事です」


 ただ、助けるつもりは無くとも、マリアンヌは助言を一つだけ口にした。

 マリアンヌは説明を聞きたいという好奇心もあり、セレストを追い込むように、真綿で首を締めるように追い詰める側に回った。



 セレストは連れて行った侍女が自分の部下だけであることに安堵し、彼女たちなら口は割らないと確信しつつも、自分は大丈夫だろうかと冷や汗を流す。


「それはですね、リュカ様から、情報の取りまとめを感謝されまして……」

「それ以外にも何かあったわけですわよね?」

「誤魔化そうとしているのがよく分かります。もう少し、表情を取り繕うべきです」


 ディアーヌの目が笑っていない。

 マリアンヌは楽しそうだ。


 逃げ場は、無い。





 その輪に参加しないコレットが今の気持ちを言葉にできたらこう言っただろう。


「私はあんな風にならないようにしましょう」


 どこか鬼気迫る雰囲気で追い詰めるディアーヌ。

 普段と違い隙だらけのセレスト。

 人の不幸は蜜の味? 色恋沙汰に暴走気味のマリアンヌ。


 外から見る分には楽しそうではあるが、当事者にはなりたくない。

 そんな彼女たちは、コレットにとっての“反面教師”であった。


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