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反面教師たち④

 一回のレースでは、最大十八頭の馬がその速さを競い合う。

 レース場には長距離レース、中距離レース、短距離レースといった距離ごとの強さを図るレース区分があれば、草原、荒れ地、砂地といった地形適正の区分がある。

 また、伝令兵を想定した軽い騎手を使うレースもあれば、鎧を纏った騎士による騎馬のレース、物資運搬能力を競うばんえい競争など騎手による区分も存在する。


 競馬場には行わないものだが、弓兵を乗せるための馬の品評会や、レースだけではない実戦を想定した馬上試合なども行っているが、今回は競馬場の話である。



 本日の第一レースは伝令兵を運ぶ長距離走馬の新馬戦である。

 走る馬の数は八頭。他はともかく、デビューする馬を増やす事は容易ではないので、最大頭数には滅多にならない。

 リュカの前で行われると聞き、騎手達の気合いはいつになく高まっている。


 レース開始の銅鑼が鳴らされ、このレースでデビューする(デビュタント)馬たちが一斉に走り出す。

 出遅れた馬はいない。

 1周2kmのコースを5回も回るこのレースは、ペース配分が何よりも重要である。ただ、全力で走れば良いというものではない。最後まで(・・・・)走り抜ける事が何よりも大事なのだ。

 騎手達は馬の足を緩めすぎず、しかし可能な限り早く走らせるための指示を出す。

 馬はそれに応え、普段とは違った熱気の中をひたすら走る。


 途中、何度も駆け引きが行われた。

 先頭に立つ馬は他の馬のペースを乱そうと揺さぶりをかけるし、反則にならない程度の進路妨害も行う。

 逆に二番手の馬は先頭の馬を風よけにして体力を温存する戦法で落ち着いた試合運びをする。後半のスパートに賭けて先頭集団から距離を取る馬もいる。

 自分の得意を出し切り、相手の得意を封じる戦いを繰り広げていた。


 そうして最後は最後尾にいた馬が前を走る馬たちを一気に追い抜きゴールイン。

 その圧倒的な末脚を見せつけ、新馬戦を勝利で飾った。





「最後、素晴らしい伸びでしたね! いやぁ、あれは本当に強い馬だ!!」


 案内役の男は、心の底から競馬が好きな男だ。

 興奮冷めやらぬ表情で、見応えのあるレースに惜しみない拍手をする。


 しかし、リュカは面白いとは思ったものの、案内役ほど興奮はしていない。

 「たとえ少しでもお金を賭ける方が真剣になれる」と言われたので少額を賭けたが、事前情報が無ければ目の前の馬から状態を見極める目がある訳でも無く、なんとなく勘で賭ける事しかできなかった。

 賭けて当ててはいるが、そこまでお金に執着しなくて良い環境になったため、勝ったところでそこまで嬉しいと思わなかった。



 リュカは少し考える。


 レースそのものは見ていて面白い。

 興奮するかと言われれば否と答えるが、少し遊ぶというのであれば、これは良い娯楽ではないかな、と。

 ハマるほどのものではないが、これはこれでアリだろう。


 この時のリュカはそんな風に考え、その日の最終レースまで観戦を行い、「楽しかった。また来るよ」と案内人に告げて帰って行った。





 リュカは全然気にしていなかったが、この日のリュカは賭に全て勝っていて、支配人らを唖然とさせる事になった。

 次回以降、自分から賭けたいと言い出さなかったので、支配人からは「賭をしませんか」と言わず、大人しく観戦だけで満足して貰うように努める事になったという。


 リュカが賭博を楽しむ気にならない人間だった事は、誰にとっても幸いだったと言えよう。

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