暴走娘・シャルロット③
リュカの煽りに対し、シャルロットは顔を真っ赤にして口をパクパクとしていた。
怒りのあまり、声が出ないようだ。
替わりに、護衛の女性騎士が前に出る。
「貴様! 姫様に向かってその態度は何だ!
元平民風情が調子に――」
「黙れ」
何も言えない姫に替わり、文句を言おうとしたのだろう。
剣に手をかけ騎士はリュカの身分を理由に糾弾しようとするが、リュカはそれを途中で止めた。
「元がなんであれ、今の身分は俺が上だ。属国の、ただの騎士でしかない貴様が口を挟むな」
身分差をハッキリとする為だ。
立場の違いを分からせないのは危険なので、リュカは強く騎士を止めた。
怒気を纏い、視線を向ける。
元が兵士のリュカは、身分や階級といったものを絶対視する傾向にある。
命令系統が曖昧では戦場で命取りなので、そこをハッキリさせる事はリュカにとって当たり前の事だ。
大魔力の持ち主と分かってからは部下を持つ事もあった為、自分が上になって戸惑うという事も無い。
リュカは天上騎士であり帝国の公爵なみの地位にいる。属国の姫とはいえ王位継承権を持たないシャルロットよりも上位の存在であると定義されているので上位者として振る舞うその態度に問題は無い。今は公式な場なので、むしろそうしなければいけない。
護衛の騎士は更に下の立場なので、勝手に発言する権利など無いのだ。
諫言であれば聞く耳もあるが、単純に立場をわきまえない愚者の言葉に対し、リュカは厳しかった。
リュカの迫力に気圧され、騎士も喋れなくなる。
侍女に至っては顔から血の気が引いており、立っているのがやっとという有様だ。
シャルロットも、ようやく自分が誰の前にいるのかを思いだしたようである。
リュカは、帝国最強にして並び立つ者の居ない無双の騎士なのだ。
そうでなくては平民が一国の姫より重用されるはずがなかった。
「さて」
シャルロット側が喋れなくなったが、それではいつまで経っても話が終わらない。
リュカは怒気を抑え、落ち着いた声音で語りかける。
「シャルロット姫。貴女は、俺と結婚する意思があるのか?
俺は、それが知りたい」
ゆっくりと、優しく。
しかし嘲りの光を目に宿し。
リュカは、これで終わりだとばかりにシャルロットを問い詰めた。