幕間:要らないハーレムの為に動く騎士
リュカはハーレムというシステムを嫌っている。
はっきり言ってしまえば、ハーレムなんて考え方はなくなってしまえばいいのにと思っている。
ただ、その必要性が理解できないわけではない。
魔法という概念は基本的に血統により受け継がれるため、強い魔法を使える人間が多くの子を残すことは国にとって有益であると、それは分かるのだ。
魔法使いは魔法が使えない奴より普通に強いので軍事力として優秀だし、開拓などでも便利な魔法の有無が成功と失敗を明確に分ける。農地に水魔法の使い手の組み合わせがどれほど素晴らしいかは、帝国の臣民なら誰でも知っている常識だ。魔法使いの数はそのまま国力の強弱を決めると言っていい。
だから強い魔法使いである自分が多くの子を望まれるのは“理解も納得もできる”。
だが“感情面が付いてこない”ので、ハーレムなんて無くなってしまえと言いたくなるのだ。
女性を物扱いできるはずもないし、多くの女性を囲う事に喜びを見出せないので、複数の女性に手を出すことは負担でしかなく、たまに全て放り出したくなる。
女性が複数集まってしまえばギスギスする可能性が飛躍的に高まるので、嫁という立場を複数作るリスクが怖い。
一人でいいのだ。嫁というのは。
なんで複数の嫁を娶らねばならないのかと、己の不幸を嘆きたくなる。
魔法が使える事は幸せだし嫁たちがまともなので我慢できるが、これで排除が許されたシャルロットのような暴走娘ばかりなら武力による話し合いをしなければならないところだった。
文明的な生活をするのに魔法だけでは足りないので、武力行使は最終手段と封印しているが。
政治家としての皇帝に全幅の信頼を置いているので無体な真似をされないと分かっているが。
総合的に見て自分が幸せな立場であると客観視できる冷静さがあっても、面倒な嫁がたくさんいる現状を嘆かずに済むかどうかは別問題なのだ。
それに自分を御せるための何かがあるなら、それを活用して子供を作るだけの人生になりかねない危険性もあった。
それを思うと嫌な気分になる。
リュカは平民の出で、兄弟の数が多い。
そして兄弟が多いという事は親に構ってもらえる時間が少ないという事であり、幼少期のリュカはそれでずいぶん寂しい思いをしたものだ。
子供は好きだし可愛いと思うが、十人どころか数十人と子供が出来た後、ちゃんと子供を構ってやれるのかと問われれば自信がない。妻に妾と合わせて十二人もいれば、そこから生まれてくる子供の名前を覚えきれるかも不安だ。被りなしで名前を考えてあげられるかも心配である。
それに、酷い話だが、妾の産んだ子供は「認知しても一緒に暮らして育てる事は出来ないだろう」と言われている。
子供がたくさん出来ても何とかなる気がしない。
でも、自分の子供はちゃんと自分の手で面倒を見たい。愛情を注ぎたい。道具扱いしたくない。
矛盾しているようで、本来であれば普通の人生という夢も持っていた。
残念ながら、その夢が叶う日が来ない事はもう知っている。
あと。
なんだかんだ言って“甘い”リュカは、抱いた女性を自分の都合で捨てることが出来ない。
誰もが幸せになれる解決策が存在しない状況なので、せめて自分にできる事をしよう。
誰かを不幸にしたいわけじゃないし、出来れば周囲の誰かには幸せでいて欲しい。
いくつかの打算と、諦めと、人としての善性と、給料などの待遇の良さ。
リュカが頑張るのは、その程度の理由である。




