コレットの侍女⑤
リュカは嫁たちにしばらく時間を与える意味で距離を取る。
変な勘違いをさせないようにデートの約束も取り付けておき、もう片方の当事者と話をすることにした。
その相手とは、コレットの専属侍女である。
「カミーユ。今回の件の説明をお願い」
「分かりました。リュカ様」
この手の話し合いでリュカが小細工を弄することはあまり無い。
正面からぶつかっていくだけだ。
コレットの専属侍女、カミーユはリュカに説明を求められ、微笑みで応じた。
「元はと言えば、私たちの失態を、我々自身の手で挽回するためでした。
アレは私の落ち度です。姫様に責任は無く、姫様の手を煩わせずにどうにかしたい。それだけでした。
しかし、周囲はそれを許してくれません。姫様への視線は厳しくなりました。私たちが何を言ってもそれは変わらないでしょう。
でしたら、周囲を変える必要があると思いませんか?」
リュカの常識でも、上司が部下の責任を取るのが当たり前だ。
コレットに非難の矛先が向くのは分からないでもない。
リュカはコレットを罰するつもりもなかったし、そこまで怒っていないので気にしない。
しかし他の三人、その下にいる者までそれに納得するかと言えば、そうでもない。
むしろ、あの時にリュカがコレットに何らかの罰を与えていればもっと話が小さくまとまったのかなと、そんな後悔をする。
そんな後悔を表に出すことなく、リュカはカミーユに話の続きを促す。
「とは言え、問題行動を重ねる事は出来ません。でしたら相手に問題行動を起こしてもらうしかない。そういう考え方もできません。
ならばできる事は、私たち自身の価値を高め、話を聞き入れてもらう為の“格”を手に入れたかったのですが。
さすがにこれは予想外です」
ここでカミーユは困惑した表情を見せた。
彼女にしてみれば、こうも簡単に相手が暴発したのが意外だったようだ。
「煽るつもりは無かったのです。
ただ、ディアーヌ様達に私たちの価値を認めさせれば、お話をする機会も作れると思っていましたのです」
カミーユがしたかったのは、ディアーヌ達への直訴。
問題にならないようにそれをしようと思い、努力を重ねていたが。
――その下は、カミーユが思っていたより煽りに耐性が無かった。仮にも国を代表する侍女なのだから、もっと我慢できると思っていたのだ。
そして、リュカが想像以上に早く動いた。
ディアーヌの下はまだ暴発していないのに、その前に対策を取り、こうやって話をするとは思っていなかった。
「いや、問題なんて起きないに越したことは無いと思うけど」
「普通の方はそこまで私たちに気を遣いませんよ。私はリュカ様を分かっていなかった、そういう事なんですよね」
なお、貴族は侍女が何かしたところであまり動かない。
侍女たちの間だけで話が済んでいる分には気にするほどの事ではないと、無視するものなのだ。
そういった事は部下の統括である家宰などが取り仕切るものである。
なるほどなぁ、と、リュカは話を終える。
最後に問題を起こす寸前までいった他の国の侍女たちに話を聞こうかと考えたが、それはもういいかと考え直す。
そうしてリュカは最後の仕上げをすることにした。




