暴走娘・シャルロット②
「文句?
結婚の話か? それとも、戦争の時の話か?」
リュカはシャルロットに対し、どこか呆れた口調でそう問い詰めた。
シャルロットはそんなリュカに対し苛立ちを隠さない。
おつきの侍女の目つきが鋭くなり、護衛として付いてきた女性騎士などは殺気を放ちだした。
リュカは三人に対し、妻や妾としてどころか、王侯貴族として失格という評価を付ける。
腹芸は貴族のたしなみだし、ここまであからさまに他人を糾弾するのは淑女として落第である。
少なくともリュカは、貴族の淑女とはそういうものだと聞いていた。
「あんたが滅ぼしたシザリス王国! そこであんたはどれだけの人を殺したというの!
罪のない子供も、か弱い女性も、穏やかな老後を迎えたはずの人も! 兵士ならば分かるけど、そうではない戦えない人にまで手をかけるなんて!
この、冷血非道の悪魔! あんたなんて、人間じゃないわ!」
「は?」
相手が淑女とはほど遠い阿婆擦れだとしても、それでいきなり結婚を取り止められるかというと、そうではない。
相手から決定的な一言を引き出すまで婚約は有効だ。
リュカはその為に会話を続けるが、そこで出たシャルロットの的外れな言葉に、思わず間抜けな声を出した。
彼女の言葉があまりにも突飛で、くだらないものだったからだ。
シザリス王国の反乱。
軍人だけではなく、民間人にも多数の死者が出た、リュカが名を挙げた反乱劇である。
リュカは反乱を起こしたシザリス王国の暴徒を鎮圧する為に戦場へと赴いた。
そこで多くの兵を討った。つまり殺した。
しかし都市制圧は人海戦術が要求される兵士の仕事でしかなく、リュカは参加していない。
つまり、リュカは兵士以外をほとんど殺していない。
数少ない例外は、敵国の王城で王族を守ろうと立ち塞がった文官や侍女などだけである。
付け加えると、シザリス王国の王都で民間人の死者が多かったのは、シザリス王国側が取った市街地戦という戦術のせいだ。
王国はリュカの戦闘能力を大規模破壊魔法による殲滅戦であると判断し、王都の町並みや民間人を盾にしつつ戦ったのだ。
この件で責められるべきはシザリス王国の王族であるし、そもそも彼らが反乱を起こしたから民間人に死者が多数でたのだ。リュカに責任は無いと言える。
いや。
そもそも、戦争において兵士の罪を問うとしたら命令違反、軍紀違反ぐらいだ。
敵国人を戦場で切り捨てて罪になるという事自体がおかしい。
戦場の作法を知らない、シャルロットだからこそこういった勘違いをする。
リュカはその誤解を解くかどうか悩み――放置する事にした。
細かい事を考えず、その後の展開も気にする事無く、「妻を減らした方が自分にとって都合がいい」とただそれだけで、“正しい話し合い”をしない事を決めた。
だから。
「ならばどうする? ただ文句を言って終わりか?
いや。この場ですべきはそんなどうでもいい話ではないな。
俺の妻になるかどうか。なるとしたら、それは自分の意思かどうか。大事な事はそれだけだった」
歯牙にもかけないといった態度で、リュカは不遜に笑ってみせる。