彼女たちの努力③
マリアンヌの魚料理は、海の魚を使う。
「美味しいですけど、輸送費用が凄まじいですね。香辛料の値段にあんなにも驚いたというのに……」
「凍らせて運ぶとは聞いていましたが、そこまでしますか」
海の魚は足の速い魚と遅い魚がいるが、マリアンヌが好きなのは足の速い魚の方だ。
そういった魚を食すため、マリアンヌの国では氷を作る魔法や魚を凍らせる魔法使いを貴族平民問わずに育てている。
魚にかける情熱では、帝国領でも随一だろう。
ただ、そうやって魔法使いを確保しても運送費用は相応にかかる。セレストの香辛料も高くつくが、マリアンヌの魚運送費用よりは安いはずである。
セレストは魚にかける値段ではないと思うが、それはマリアンヌが香辛料にかける費用ではないと思ったのと同じである。
気が付かぬは本人ばかりなり。
地元であれば生魚も出せるのだが、凍らせたとはいえハーレムまで運んだ魚では状態が悪く生のまま出せない。
今回はムニエル、小麦粉とバターを使って焼かれたものがテーブルに並んだ。
コレットは僅かでもバターが使われている事に喜び、ディアーヌはあっさりとした味付けに安堵する。セレストは塩とバターだけでなく胡椒などの香辛料をもう少し使ってもいいのではないかと思ったが、賢明にもこの場で口にすることは無かった。
評価は高めの魚料理であったが、生の刺身が出せなかったのはマリアンヌに不満を残した。
冷凍用の魔法がある事と、高い冷凍技術がある事は別である。
魚を凍らせ運ぶことの歴史は長いが、まだまだ精進が必要なのだ。
最後、トリを飾るのはディアーヌだ。
彼女が用意したのは、多彩なサラダだ。
20種類の野菜にベーコンとクルトンを使い、ドレッシングをかけた豪華な品であるが……。
「前菜/副菜を持ってくるとは思いませんでしたわ」
「肉料理/主菜に汁物、魚料理/主菜でしたから、間違いではありませんが。国を表す料理としてこれを選びますか」
マリアンヌはその大胆さに、セレストはディアーヌの意図から。
それぞれ唸るように感想を述べ、出されたサラダを睨む。
ディアーヌの意図は簡単だ。
多様な野菜を出せるというのは、それだけの国力がある事の証明だからだ。
帝国の広大な版図で採れる野菜、それを新鮮なまま出せるという事はそれだけ支配体制が盤石であり、豊かであると言える。
マリアンヌの魚料理も距離を感じさせぬ料理であったが、こちらは桁が違う。
属国全てから1種類の野菜などを取り寄せているため、一皿に帝国領土全部乗せ。
また、特定の国を感じさせない作りにしているのは、帝国が属国も含め全てを含んでいるともとれる。
小さな“国”という枠ではなく、大きな“帝国”という世界。
まさにこれこそ帝国料理と言っていい。
ただ、これをディアーヌを表す料理として出すに値するかというと、疑問が残る。
コレットは本当にこれでいいのかと、首をかしげているが。
「幼い頃から食べている料理、ですから。
ここまで使うのは滅多にありませんけどね」
必要なのは国を知る事ではなく、人を知る事。
これが自分の料理だと、ディアーヌは胸を張った。




