彼女たちの努力②
コレットの食事は、小柄な見た目から想像できないほど「重い」。
「クリームシチューですわよね……」
「……小皿で食べるよう勧められた理由が分かりました」
シチューとは、言ってしまえば牛乳を使った煮込み料理だ。
牛乳だけでなく、王族用なので肉と野菜がたっぷりと使われているので、栄養価はバランス良く高い。
更に、彼女の好みに合わせてチーズも入っているので、非常に味が濃い。
薄味好きで小食なディアーヌが、これを一皿食べろと言われるなら。それはきっと苦行そのものであっただろう。
マリアンヌもここまで乳製品ばかり使われた料理には馴染みがなく、あまりのくどさに一緒の料理を食べようと言い出したことを後悔していた。美味しいが、一皿もの量は要らないと思ってしまう。
バケットと一緒に食べるのだとしても、これは無いと二人は思った。
「合うとしたら……胡椒ね」
ただ、セレストだけは「どうすれば自分の好みにアレンジできるか」を考えており、侍女にメモを取らせている。
あとで胡椒を使ったシチューを作らせ、コレットに味見させる気でいる。
彼女にとって、これは自国の商品を売り込む商機でもあった。
コレットは食の進まない二人を意識から外し、意図して何も気にしないようにしながらバケットと一緒に一皿完食していた。
言われて皿を共にしたが、コレットはどちらかと言えば、|こういった事《誰かと一緒に食事をするの》はあまり好きではなかった。
セレストの料理は、辛みの中に旨味を求める料理が多い。
最初に出されたのは、レッドペッパーをふんだんに使ったスープである。
「これで……抑えていますの? 本当ですか?」
「疑うようでしたら、こちらをどうぞ」
「はうっ!!」
セレストも、自分の辛味好きが理解されにくいものであることを知っている。
なので、自分用の半分以下の辛さに抑えた料理を作らせたのだが。それでもディアーヌには耐えられなかったらしい。
本当に手加減していたのかと思わず疑いの目を向けてしまい、それが事実であったために淑女らしかぬ声を上げる羽目になった。
マリアンヌ、コレットもひと口で無理だと諦めた。
「こちらは炒めた小麦と牛乳から作ったヨーグルトを混ぜ、辛みの元をほとんど入れていない品になります。
これなら大丈夫でしょう」
「……ええ、これなら」
「辛くありませんね」
予想通りの反応をした三人にセレストは苦笑し、別の品を持って来させた。
ふんだんに香辛料を使っているのは変わらず。辛みを減らし、小麦粉でとろみをつけ、ヨーグルトで口当たりをまろやかにし、酸味を加えたスープである。
こちらは全員、普通に完食できた。
「辛みは発汗を促し、体調を整える役に立ちます。本当は辛味も強い方が健康には良いのですが。
まぁ、他の香辛料も医者の使う健康に良い薬草なので、我が国では薬膳料理として王家に供されています」
なるほど、とセレストの言葉に他国の者は感心の表情を浮かべた。
そして一食あたりの値段を聞き、今度は別の意味で驚くことになる。
「関税が減りもう少し流通量が増えれば、半値未満まで安くなるのですけどね」
セレストは落ち着いて、自国料理のプレゼンテーションを締めくくった。




