彼女たちの努力①
リュカが家族サービスを始めたわけだが、それで夫婦仲が良くなるかというと、そうでもない。
あまり意識されない話だが、サービスはあくまでサービスでしかないという事だ。
家族サービスを行うこと自体が大事ではなく、その中で何をするかの方が、実は重要だ。
「自分は~~まで連れて行ってあげたんだから、もういいだろう」と思ってしまうと、たとえ連れて行った先で相手が楽しめたとしても、二人で楽しんだことにはならない。
楽しい思い出が出来る事と、二人の仲が良くなることや理解し合うことはそこまで関連付けられないのだ。
そんな微妙に勘違いやすれ違いをしたリュカの脇で、嫁四人はそれぞれが仲良くなるための努力をしていた。
「できるだけ一緒に、同じご飯を食べましょう」
こういった提案をするのは、マリアンヌの役目だ。
最初の「リュカの夜の休日」に関する提案から始まり、何度も似たような話し合いをしている中で、自然と役割分担がされている。
内向きの話し合いでは、年長者としてマリアンヌが議題を持ち込み議長を務める事が多い。
これは、彼女なりのバランス感覚によるものだ。
主導権争いという意味では、議長は後塵を拝する事が多い。
議題を提案する段階で主導権を握れるように見えるが、この面子では議長は投票権を持てないので、意見を通しにくくなるからだ。
これで当初の五人であれば意見が分かれた時の最後の一票を持てるので有利になるのだが、四人では賛成と反対が同数になるのを防ぐために、議長は投票権を持てない。
多くの提案を持ち込む分、そこで割を食う格好になっていた。
今回の提案は、食事を一緒に取るというもの。
至極真っ当な話に見えるのだが、セレストは最初に懸念を表明した。
「大丈夫なの? 食事の習慣が違いすぎるから別々に用意させているのに」
「はい。そうやって面倒を避けた結果が、あの評価ですから」
彼女たちの食事は、それぞれが違う国の出であるために違うものが用意されている。
食文化の違いは大きなストレスになるからと、故郷の味を用意しているわけだ。
セレストは香辛料をふんだんに使った食事が多く、特に辛い物が多いため、他の国の料理を薄っぺらい味と感じ、美味しいとは思えなかった。
コレットの国は牧畜が盛んで牛乳やチーズを使った料理が多く、シチューと固焼きのパンが主食になる。
マリアンヌの場合は海洋国家の出であるため、海の幸、魚貝類が好まれる。あと、塩味が強いものが多い。
ディアーヌであれば「何でも手に入る」と言われる帝国の帝都出身なので多様な食生活に慣れてはいるが、極端な味付けを好まない。どちらかと言えば繊細な薄味を喜ぶ。
……リュカは、食事など腹が膨れればそれでいいとしか考えていない。
そうやって食文化と食の好みを合わせるのが難しい面々であったため、序盤に何度か試し、今は好きな物を食べれば良いという流れになっていた。
全員が満足する料理を用意しろとは、かなりの無茶ぶりである。不可能と言っていい。
「すぐに慣れることが出来るとは思っていません。ですが、継続して徐々に慣れ親しんでいけば、いずれ何とかなりますよ。
この先何十年と一緒に暮らすんですから。少しは歩み寄りましょう」




