一般論
リュカが嫁全員の話を聞いた翌朝。
リュカは改めて嫁たちの状態を確認する。
人間、寝ると頭の中の情報が整理され、いったん落ち着くものだ。
頭の回転が止まるほどのショックを受けた時などは逆に朝になって正しく状況を理解して取り乱すといったケースもあるが、今回はそうならなかったようだ。
リュカの見立てではマリアンヌがやや落ち込んでいるものの、あまり深刻に考えなければいけないほどの状態は脱した様子である。
安心したリュカだが、その日は仕事を早々に終わらせ、昼過ぎに屋敷へと戻ってきた。
「個別で話をしたけど、全員で話し合った方が良さそうだからね」
暴走するかもしれないディアーヌと、回復傾向にあっても油断の出来ないマリアンヌ。
二人へのケアが必要だからだ。
こういった事は、時間をかけて行うものである。
リュカは周囲から、そのようにアドバイスされている。
「今回の件は、考え過ぎだと思うよ。
人間、分かり合うのに時間がかかるんだ。出会って1年も経たない間に分かり合えると考える方が傲慢だと思うんだよ」
リュカはまず、叱られた事をそのものを否定する。
「笑って、怒って、泣いて、喜んで。
そういった事を一つ一つ共有して、分かり合っていくものだよ。
今はまだそういった積み重ねが足りないから、分かり合えていない。そこはもう、諦めていい」
そこで言葉を一つ区切る。
「ただ、もしも言われたことを気にするなら。何か一緒にいる時間、一緒にやる事を増やすしかないね。
あせる必要は無いよ。ゆっくり、時間をかけて取り組めばいい。
ダンスのレッスンとか、そういった事なら一緒にやっても問題無いだろうし、着ているドレスのデザインを一緒に相談するのもいいだろうね。服をお揃いにするのは、連帯感を高めるから。あとは食事を一緒に取るとか、分かりやすくていいんじゃないかな」
これが男連中であれば、風呂や寝床を同じくすることまで勧めるだろう。
同じ釜の飯を食った仲間、裸の付き合いなど。それは兵士時代のリュカが経験した「仲良くなる方法」である。
効果については、確実にあるとリュカは信じている。
そういった事を笑顔で、善意で語るリュカを見て、マリアンヌは軽く絶望する。
ああ、この人は私たちに興味を持っていない。そう思ってしまったのだ。
リュカの言葉は、ありふれた一般論に終始しており、マリアンヌたち個人に向けたようなものではなかった。
外から見た話しかしてもらえない、身内としての意識を持たれていない。
自分たちに優しい言葉をかけるリュカを見て、マリアンヌは胸の奥から湧き上がる悲しみを抑えるしかなかった。




