女性の愚痴
リュカは、セレストの愚痴を根気よく聞き続けた。
セレストは商売に携わっていただけあって、普段であれば理路整然とした、分かりやすい話し方をする。
しかし、ただただ愚痴をこぼすセレストの言葉は断片的で話の内容があちらこちらに飛び交い、非常に分かりにくい。ロジックが成立しておらす、感情的な判断が目立ち、おそらく本人も何を言っているか分かっていないだろう。
女性の愚痴を聞くとはそういうものだろうと、徐々に感情がフラットになっていくセレストを見て、「ただ話を聞くだけでいいのか」とリュカは内心で苦笑いする。
実際にやった事と言えば、話を聞いている間はいかにも同情しているといった風を装い、ひたすら相手の言葉に「ああ、そうだよな」「うん、分かるよ」「頑張っていたのを、俺は知っているから」と返していただけである。
言葉に中身は無いが、大事なのは「誰かが自分のために時間を使ってくれる」という部分である。気の利いた対応やウィットに富んだ言葉ではない。むしろそういった「できた対応」をすると話がこじれる可能性すらある。
この対応の仕方を教えたのは年配の侍女だが、本当にこれだけで良かったのかとリュカは感心することしきりである。
存分に話を聞かされたリュカであるが、これをあと2回もしなければいけないと思うと、普段の困難な仕事の方がよほどマシだという気分になる。
リュカの仕事は殺しも含む軍人としての任務に加え、大魔力を活かした大規模工事の手伝いなどがある。
女性の愚痴を聞くだけで命の危険や特殊な技能を求められない簡単なお仕事です、とは言うものの、やりがいという意味では全く手ごたえの無い内容にリュカはウンザリとした気分になった。
リュカという男の思考回路は、重要で困難な任務や自分にしかできないと言われるような仕事を求めており、傾向としては体を動かすか魔法を使うようなものを好む。
女性の話をじっと聞き続けるのは得意ではないし、苦痛である。
それでも、リュカは「これも仕事」と割り切ってマリアンヌとディアーヌの話を聞きに行くのだった。
マリアンヌの方は、セレストと比較するとまだ話ができる状態であった。
時間が経って考えがまとまってきた事もあったのだろう。
もしくは、リュカに格好悪いところを見せたくないという強がりだろうか。弱みを見せたセレストとは真逆である。
ただ、話を聞いてもストレスがあまり軽減されず、手応えの無さで言えばセレストの方がマシという結論になる。
そしてディアーヌはあまり落ち込んでいないどころか、好戦的であった。
言われたことに対し、評価をひっくり返して見せようという強さを見せた。
ただ、ディアーヌの反骨精神は良いのだが、リュカはそれで暴走しそうな危惧を抱いた。
なお、コレットは愚痴をこぼすも何も、喋れないので、添い寝で誤魔化される運びとなる。
本人もそれで満足したようなので、これはこれで問題なさそうだ。




