外部監査⑤
四人の関係について指摘したイネス夫人。
その後も屋敷や姫達の立ち振る舞いなどを調べ、一通り駄目出しを終えて戻っていく。
その際、気になっていた事を確認する。
「貴女方が注意しなかったのは何故です?」
それは四人の侍女の行動について。
ハーレム要員として送り込まれた娘はともかく、それ以外、身の回りの世話をしたり細々とした部分を補佐する年配の侍女への質問だ。
主が至らない場合、侍女はそれを諫める事がある。
無論、勘気を買わない為に沈黙を是とする者もいるが、全員が何も言わないという事はまずあり得ない。
ここには百人以上の侍女や女性騎士が詰めている。一人二人なら、忠誠心と踏み込む勇気を備えた侍女がいてもおかしくない。
「陛下より口だし不要と言われております。
それもまた経験。
その経験がリュカ様との関係を作るのだ、と」
「やれやれ、ですね。誰も彼もが陛下の手のひらの上ですか」
イネス夫人とそう年の変わらない侍女より返ってきた答えは、予想したとおりのもの。
今回の外部監査が皇帝陛下肝いりのものであるなら、指摘する内容も陛下のお膳立て。
予想された失敗と、想定内の結果。
予定調和と言われてしまえばそれまでだが、踊らされた者としては、面白くないのも事実だ。
なぜなら、侍女は口にしなかったが、あっさりと答えを返したと言うことは、皇帝はイネスが侍女にこの質問をすることも想定していた証拠だからだ。ごまかしも偽りも無い返事を、淀みなくしたのだから間違いない。
四人の姫だけでは無い。彼女自身も遊ばれている。
先見性のある主を得たことは、臣民としては嬉しい限り。
しかし、その能力を国の為では無く遊びの為に使うのは、いかがなものと思う。
これも仕事の息抜きなのだと、そう考えることでイネス夫人は自分を納得させる。
「姫様は、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫でしょう。あの娘は、あれで心が強い。言われて落ち込み潰れることもありません。
ただ、他の三人は知りませんが」
同じ帝国出身の侍女。
彼女は同郷であるディアーヌの心配をするが、イネス夫人は問題ないと返す。
どれだけ叱られても心が折れないのはよく分かった。
ただ、と一人の姫を思い出す。
マリアンヌ姫だ。
彼女に関しては、大丈夫とは言い切れなかった。
「一人で乗り越える必要もありませんし。後は夫がなんとかすれば良いでしょう」
イネス夫人は終えた仕事のことを忘れ、気持ちを切り替える。
そこから先は、彼女の仕事では無かった。




