外部監査①
「マリアンヌ様、この件ですが――」
「これは、そうね――」
「マリアンヌ様、こちらの準備が整いました」
「ありがとう。すぐに行きます」
「ディアーヌ様、本日の来客のご予定ですが――」
セレストは忙しそうに働くマリアンヌとディアーヌの間で、二人をフォローするように動いていた。
普段は何もしないコレットも、芸事で客をもてなす為に準備をしている。
コレットを嫌っているセレストだが、こんなところで足を引っ張るつもりは無いし、足を引っ張られたくもない。
仕事をしてくれるのであれば、何も言う事は無かった。
この日はハーレムに人を送り込んでいない他国の貴族籍を持つ女性が来ることになっていて、その対応に追われているのだ。
リュカの意向が最大限尊重されるのでハーレムに人を送り込まれることは無い。
そこだけは間違いのない話だ。
しかし、ここで下手を打てばセレスト達四人の評判は大きく下がる。
“大した事のない娘四人がリュカの寵を得るために他の娘を排除しようとしている。だからこれ以上人を送り込めないのだ。”
事実がどうかは関係なく、リュカの意思も無視して悪意ある噂を流すのだ。
客の前で醜態を晒す訳にはいかなかった。
貴族籍とは、爵位を持つ家長本人に加え、正妻と継嗣の二人だけが持っている。
そしてハーレムは主以外の男子が入ることを許されない。
よって今回来るのは「貴族の夫人」達である。
女の相手をするのは同じ女の方が良い。
そういう理由もある。
なお、本来であればハーレムに客が来るというのはあり得ない。物資の搬入以外は隔離するのが普通だからだ。
それでも客が来るのは皇帝側の配慮という事になっている。
外部の目が無い場所では人が腐るから、と。
孫娘たちが緊張感を持って生活しているかの監査である。
それと本人の報告が適正であったかどうかの審判も下される。
真剣に様々な事に取り組んでいた自負はある。
しかしセレストは人生で最も緊張する瞬間を迎えていた。




