乙女心・ディアーヌ
ディアーヌは、少し困っていた。
マリアンヌとは上手く歩調を合わせている。
彼女はディアーヌに一歩譲り、自己主張を強くしない。外のディアーヌ・内のマリアンヌと、上手くバランスが取れている。
セレストは扱いやすい。
彼女は金銭的な仕事に強く興味を持ち、物資の手配などを任せるに足る人材だ。マリアンヌと同じ内向きの事だが、人と物という差があるので、仕事が競合しない。
ただ、コレットだけはどうしていいか分からない。
何をするでもなく、ただ自分だけの時間を過ごしている。
彼女一人、「役立たず」である。
この状態が長く続けば、いずれ彼女が排斥されかねないという未来が予測出来る。
それはリュカの正妻を目標とするディアーヌにとって、それはあってはならない事だった。
ハーレムを御する事も、正妻に求められる資質なのだ。
つまり、彼女の失点もディアーヌの失点と成り得る。
コレットについて、親からは「余計な詮索はしないように」と言われて事情を聞けずにいる。
「同じ妻なのだ教えて欲しい」と言ったところで、上には聞き入れてもらえない。
周囲からの調査は難航していた。
個人的に仲良くすれば御付きの侍女あたりから教えてもらえるかもしれないが、どうにもコレットからは避けられているようで、ディアーヌは彼女と二人きりで話す事が出来ずにいる。
そして運良く話す機会を得ても、完全に警戒されるだけで終わった。
「コレットと仲良くしたい」というディアーヌの目的は果たせていない。
ディアーヌは上手くいかない現状に頭を悩ませる。
上手くいかない。その理由が分かっていても、彼女には何もできない。
原因が、彼女の中にある恋心だからだ。
ディアーヌだって頭では理解している。
自分の中にある恋心が他の女を憎んでいる事ぐらいは。
コレットはそれを理解してるから、自分を避けているとディアーヌは分かっていた。マリアンヌも気が付いているようだし、彼女の嫉妬を気にしていないのはセレストぐらいだろう。
悲恋であれば、リュカと結ばれていなければ、悲しみはあれどここまで憎しみは育たないだろう。
自分を抱いたその腕で他の女も抱かれていると思うと、いずれ彼女たちがその子供を身に宿すと思うと、いっそ全てをゼロにしてしまいたくもなるほど嫉妬してしまう。
無論、理性と感情がそれを否定する。
そんな事をしてもリュカの心は手に入らないし、下手に汚い部分を見せては嫌われるだけだ。
人としての感情も、他の3人を受け入れている。
だから表面上は完全に取り繕っている。
ただ心の奥の部分、女としての感情がついてこないだけだ。
――愛しい人に愛されたい。
――愛する人の為に在りたい。
――愛する人の唯一になりたい。
乙女心は、本当の意味では誰にも制御できない。
そしておそらく、理解しているはずの本人も、理解できてない。




