リュカの暴走防止会議
騎士団の査問会。
リュカはそこで裁きを受けることになる。
リュカの容疑は、皇帝の命令無しで勝手に敵を討ったことだ。
本人もそれを認めており、証拠も証人も多数。容疑は確定し、査問は罪状に対する罰則規定の適用へと移る。
「以上、規則を通常の騎士などと同じように適用した場合、騎士の名誉をはく奪し、財産の取り上げを行うのですが――それについては反帝国の逆賊を討った事と一部相殺し、罰金ならびに労役を課すように変更します」
しかしリュカから騎士の名を取り上げる事は帝国にとって損失しかなく、民衆の反発も必至だ。
現実的な落しどころとして罰金と労役のみとなる。
幸い、その対価となる功績があったので、厳しい罰則を与えずに済んだことは、誰にとっても幸いだろう。
ただ、話は再発防止策の検討になると、誰も何も喋らなくなった。
「おや。誰も意見が無いのですか?」
司会進行役の者が意見を求め呼び掛けるが、誰も何も言おうとしない。
通常であればリュカの行動を制限するための話を持ち出す。自身の利益を引き出すために、合法と言える範囲ギリギリまで要求を押し通そうとする。そうして合法ギリギリの要求をはね退けられつつも、ある程度の成果を得るものなのだ。
それが貴族の習性であり、いつもの光景である。
ただ、今回の相手はリュカだ。
下手なことをすれば、物理的に自分が消えるかもしれない。
そんな恐怖が誰もの脳裏にちらつく。
自分一人だけではなく、家族ごと消されるかもしれない。
家名が、血族が失われるかもしれないのだ。
それは貴族にとって恐怖でしかない。
だから誰もが口を噤んだ。
ディアーヌはそれでも捨て駒になる貴族がいると予測していたが、例えば自分がリュカの不興を買う事で家族に金が支払われるという契約を結んだとしても、自分のみならず金を受け取った家族まで消されてしまえば意味がないので、不興を買う役など誰も引き受けたくない。
自分の命よりも家族の命や家名が大事とする貴族なら多く居るが、まとめて消し去るリュカが相手では勇気の出しようもない。
上級貴族であればリュカと同じことができる。命令に従わなければ一族皆殺しと脅すぐらい、当たり前のようにやってのける悪党だっていた。
ただ、悪党に逆らって殺されるのと、リュカの不興を買って殺されるのとでは、脅された者にとってどちらがマシかという話でしかないなら、彼らはどう動くべきだろう?
どちらにせよ死ぬのであれば、リュカに縋り、下手な提案をした連中を売った方が生き残る可能性が高かった。
悪党は、この場で命令通りに動かなければ家族を殺すと言うが、この場で助けを求め、リュカの敵である反帝国の貴族を売ったらみんな助かるかもしれない。リュカの善性は多くの民衆が口にしているので、賭ける価値はある。
逆にリュカの不興を買った場合、どうやったら助かるのか見当もつかない。帝国の敵となれば、誰が助けてくれるというのか。
だから。
「この場を借りてお願いしたい! 助けてくれ! 反帝国の貴族に脅されているんだ!!
家族を人質にされている! ここでリュカ殿を糾弾せよと言われて、逆らえば一族郎党皆殺しだと……っ!」
一人の下級貴族が意を決して告発を行う。
リュカに向け頭を下げる。
彼は幾人かの貴族の名前をその場で叫び、彼らに脅されたのだと泣きながら話す。
当然のように、糾弾された本人からはそんな事はしていないと反論が飛び出し、リュカ対策の話は有耶無耶となって会議が荒れた。
何が何だかわからぬうちに、リュカをどうこうしようという話は流れてしまうのだった。




