最悪の伴侶
子供を城に預ける約束があった。
ハーレムに置いておける8人までという制約は、すでに子供が8人いるので限度いっぱい。
今はゴタゴタによる特例で一時的に子供全員がハーレム内に居るが、いずれ外に出さなくてはいけなくなる。
だったら、子供を産み、しばらく体を休めなければいけない期間を城で過ごす事にしてしまえばいい。
その間は城にいる嫁が、城にいる子供たちの面倒を見られてちょうどいいのではないか。
リュカに付ける鎖は、嫁本人が受け持てばいい。
「その理屈はおかしい。それならディアーヌ達が城に詰めていなくても、子供たちは鎖の役割を果たしている事になる。
ディアーヌ達が鎖になる理由にはならない。意味が無いように見える」
嫁も子供も同じ城にいるのであれば、結局同じ事ではないか?
リュカはディアーヌの意見を聞き、すぐにそう反論した。
「それを言い出せば、ハーレムに子供を置く事と、城に子供を置くことも同列に語れますね」
ディアーヌはリュカの反論をバッサリと切り捨てる。
言われてしまえばその通りで、帝都にある城がリュカの防衛範囲である事を気にしていない貴族というのは、実はかなり多い。
相手の認識の甘さを利用するやり方で対処できると自信満々に言い切る。
もしも相手が引っ掛からなかったとしても、ハーレムから離れてしまえば実務に関わることができなくなる。
城ならば城でしかできないような仕事もあるので、ハーレムの役に立てないという事は無いのだが、リュカの力を削ぐという事にはなるので、多少の交渉材料にはなり得た。
「それに、です。
ハーレムにいない事は、私にとってはとても寂しい事なんですよ。
これはかなり酷いお仕置きです」
そしてディアーヌは個人的心情を吐露することで、「意味がない」なんてことは無いと証明した。
こうしてリュカ側の内輪で行われた話し合いは幕を閉じ、ディアーヌらはリュカにさえ隠しきった本命の作戦を引き続き進めることにした。
政争に明け暮れる貴族たちをディアーヌは知っている。
今回の提案は取っ掛かりにはなるだろうが、多少の譲歩で相手の要求を満たすだけでなく、逆に反撃をしなければ相手がずかずかと自分たちの大切な者まで無差別に奪っていくことをよく知っている。
譲歩の話はした。
だが、逆撃の話はしなかった。
ディアーヌは恐れられるリュカが「最悪の騎士」と呼ばれるのであれば、そう呼ぶ連中にまで容赦をしないと決めた。
多少帝国には被害が出てしまうが、それも致し方なし。
リュカの伴侶として、同じ立場の仲間達と共に戦う覚悟を決めていた。
なお、リュカに話をしないのは、今回の件で相談してもらえなかった意趣返しである。
何も言わずに姿を消したリュカに対し、嫁たちが怒っていないなんて話は無かったのである。




