最悪の騎士①
最終的に、リュカはとある伯爵家を消した。
その伯爵家は古くから帝国にいたにも拘らず、伯爵から上に上がれない事を不満に思い、そこをつけ込まれていた。
侯爵家以上になろうと思うと、相応の功績を挙げて、皇族の血を引く誰かを一族に迎え入れる必要がある。それが出来ないうちは伯爵止まりなのだ。
ただ、歴史はあっても功績を挙げる機会に恵まれず、機会があっても力が足りないなどの理由で上には行けなかった。
そこでリュカの子供を「魔法を覚える前に攫って自分の一族で飼う」などという妄想をしていたのだが……その企みはリュカに潰されて終わった。
計画実行は数年後を予定していたようだが、その前にすべて終わった。
世代を重ねながらも忠義を骨の髄に叩き込んでいた貴族であっても、イレギュラーは発生するのだ。
不変の忠義を抱き続ける一族がただ凄いだけ、とも言う。
とにかく、反帝国を掲げ、裏で動いてきた貴族が一つ消えた。
それも、裁判など行わず、あとから証拠を提出するだけという強気すぎる方法で。
これには反帝国を胸に秘めた他の貴族も動揺し、芋づる式でどんどん捕縛されることとなった。
とはいえ、さすがに完全に排除できたわけでもない。
完全排除はリュカを始め、関係者の誰もが不可能だと思っている。そもそも、リュカの魔法を使った判別は感覚的な部分があり、絶対でもない。
ただ、勢力を大きく削ったので、一時的に行動不能に陥らせる事はできたと見ていいだろう。
そして、リュカは貴族社会で恐怖の代名詞になった。
これまでは皇帝の剣として活動していたので、リュカを怖がる理由と言うのが無かった。
あくまで皇帝の剣は皇帝の意志によって振るわれる道具であり、人間として扱われていなかったのだ。
皇帝の装備する最強の武具。皇帝に対する敬意さえ忘れなければ何の問題もない。
それがリュカの対外的な評価だったのだ。
しかし、帝国に仇なす輩を排除するためとはいえ、自分から積極的に動くとなると話が変わってくる。
これまではリュカを怒らせようと皇帝の命令が無ければ大丈夫だという認識があった。リュカを過剰に恐れない安心感があった。
リュカは、皇帝に忠実な臣下だった。
その評価が消えて無くなった。
倉庫に並ぶ武具の美しさに見とれる者はいるが、武具単品を恐れる者はあまりいない。
その武具を奪われたときの心配はしても、距離さえ確保すれば、武具だけなら何の危険も無いのだ。
しかし猟犬は違う。
猟犬は鎖に繋がれているだろう。鎖の長さよりも遠い場所まで距離を取れば危険はないはずだ。
しかし、鎖が千切れたら? 鎖を固定している杭が抜けたら?
猟犬は、襲ってくるかもしれない。
これまでのリュカが武具であったなら、今のリュカは猟犬である。
嫁たちの想定していた、リュカにとって良くない状況が生まれつつあった。




