協力者たちの思惑
リュカたちが姿を現すと、帝都は騒然となった。
それもそうだろう。
リュカは、行方不明になった貴族家当主たちを引き連れて帝都に戻ったのだから。
「陛下。帝都に巣食う不届き者を一掃する任務、一先ず区切りがついたので戻りました」
「大儀であった」
「はっ!」
リュカは単独行動を取っていたが、行動の内容の是非、細かい部分は何も言わなかったが、姿を消すという部分のみは話を通していた。
さすがに長く帝都から姿を消すのに、無断という訳にもいかない。
姿を消して何をするかは言わずとも、皇帝に一言断りを入れ、許可を取っていた。
そうしてリュカは戻ってきた。
何人もの貴族家当主を巻き込み、表では忠臣の皮をかぶり裏で反帝国を掲げる貴族家を一つ消し去って。
「其の方らまでもが姿を消すとは思わなかったがな」
「我ら一同、不忠の輩を放置するに忍びなく、ここは騎士殿の提案に乗るべきかと愚考しました。
御叱りは如何様にも」
「構わん。其の方らの忠義に、感謝を」
「勿体ない御言葉です。陛下」
リュカとともに姿を消していた貴族家当主たち。
その代表として、最も立場のあった公爵家の当主が皇帝に頭を下げた。
皇帝はなぜそのような事をしたのかを聞かされると、その功績を以って感謝の言葉だけ与えた。
今回の件で褒賞などを与えた場合は悪しき前例となり、続く愚物たちが「功績さえ上げればいい」などと言いだしかねない。それを防ぐために、裏切者を誅した功績には言葉だけで済ませたのだ。
公爵たちはそこは最初から理解していたので、家にはかなり迷惑をかけ負担をかけたが、それ以外の何も望まず、悪しき前例を作らなかった。
もちろん、表には無報酬だが、裏で何らかの利権を与えるなどして忠義に報いるのではあるが。
今回、リュカがやったことは至って簡単である。
怪しい人物ではなく、裏切っていたら困る人物数名に目を付け、彼らを味方に引き込んだだけである。
犯人と考え、疑いながら接すると問題になる。
ならば犯人と思わず接触し、味方としてともに動き、観察する。
そしてその中で裏切るならそこで捕まえ、本当に忠臣ならそのまま協力してもらい一緒に頑張ればいい。
たったそれだけの浅い考えであった。
リュカの考えは分かりやすく、老練な、公爵を始めとした重臣たちにはすぐにバレた。
しかし、彼らも忠臣であり、重臣であり、有能な家臣だ。
リュカの思惑を利用し、逆賊を罠に嵌める作戦を考案し、実行した。
それが長期にわたる失踪だった。
リュカだけでなく多くの忠臣が姿を消せば、帝都は混乱するだろう。
そうした混乱の中で動く者を探り出し、反帝国貴族の証拠を集め出したのだ。
相手の行動を誘発するついでに、身内の切り離しも行った。
今回の件で当主が失踪した貴族家に悪評が流れたが、その半分は彼らの工作だった。
そうして評判を落とした彼らを見限った連中はその程度の仲間でしかないと見切りをつけ、残った家を重用するようにした。
すり寄ってくるものが多くなると、確かに力は増すが身動きが取り難くなる。
派閥でも下っ端の貴族はある程度数を絞った方が力と動きやすさのバランスが取れる。
どうでもいい貴族でも自分たちから捨てれば悪評となり賠償問題ともなるが、勝手に去って行く分には相手が望んで行った事であり、問題が小さくなるので、出ていかせたのだ。
「実はやっぱり忠臣でした」と分かった後で彼らが戻ろうとしても、要らない貴族は自分の意志で離れていったのだからと突っぱねることができるため、何かと都合がいい。
更に自分の後継者たちに試練を課すことにより、大きな成長も見込める。
今回の件で当主不在の中、他の貴族たちとやり合った後継者たちは、責務を果たそうと奮闘した。
それは当主という後ろ盾が無い中での行動だったため、普段から頑張ってはいたものの、心理的には普段と全く違う。
もしも、いざという時の心構えを自覚させるのにうってつけの状態だったのだ。
ついでに、リュカとの縁もできた。
こうして公爵たちは多少の損失を出しつつも、きっちりと自分たちの利益を確保していたのであった。




