最強の騎士⑥
リュカは皇帝の命令に原則、従う。
それは自分の未来を予測する能力が皇帝に比べ大きく劣る事を知っているからであり、事実、基となる知識も頭の回転速度も著しく劣る。
勝っているのは魔法関連の諸能力であり。そちらに関しては比べる気にもならないほどの差が存在する。
だから、平和主義者であり善良な帝国国民であるリュカは、皇帝の命に背かない。
そうであるのに、命に背いて動いている理由は子供たちを思っての事だ。
相手がまだ若いマリアンデールをあっさり殺したように、自分の子供も殺されるかもしれない。道具のように扱われるかもしれない。
そう考えると、居てもたってもいられなくなり、衝動的に行動を選択してしまうのだ。
魔法という強力な力があるのも動く理由だ。
魔法に関して負けは無し。
その自負があればこそ、リュカは行動を起こした。
リュカが動き出してから直ぐ、帝国の中でも由緒正しく古くからある公爵家の当主が行方不明になった。
同時期にリュカも行方をくらませており、二人の姿が見えなくなってしまう。
そして、一人、また一人と公爵・公爵という大物貴族家の当主が姿を消す。
当主が消えてしまった貴族家は決まって古くから帝国に仕えてきた、忠義で知られた名門である。
帝国内でも重鎮と言われる彼らの消失は影響が大きく、帝国中が大騒ぎになる。
5人ほど姿を見せなくなったところで、一つの噂話が囁かれ始めた。
「消えた貴族家の当主は、反帝国組織と繋がっているのではないか?
だからリュカ様が当主を消して回っているのではないか?」
もちろん、根も葉もない噂でしかない。
ただ、当主が姿を消したのは事実であり、リュカが姿を見せないのも否定できない事である。
そのため、当主不在の貴族は反論するも、相手を封殺するほどの勢いを持たない。
なにしろ突然の当主不在に一番戸惑っているのは彼らであり、その穴埋めに奔走しているので反論ばかりに力を注ぐなどできない。
反論しても、言葉に力は足らず。
言葉を重ねようとしても、貴族の責務は山積みで時間が無い。
老練な当主がおらず、残ったのは経験が足りない若――くはないがまた足りない当主代理。
頼りない姿を僅かにでも晒せば徐々に味方の数は減っていき、味方が減れば沈む船から逃げ出すネズミのごとく、更に味方が減っていく。
帝国歴代に仕えた中心の貴族家は、その影響力を確実に落としていく。
当主たちの消失、失踪が始まって一ヶ月もすれば、当主不在となった家は反帝国のレッテルを貼られ、ごくわずかな親しい家以外の繋がりを失ってしまった。
誘いと分かっていても、ここまでの好機が次に、いつ、訪れるのか?
誘惑に抗えずこうして弱った忠臣の隙をつき、悪意を持つ者が動き始めようとしたとき。
そこそこの歴史を持つ伯爵家が一つ、物理的に消えた。
当主一人が消えるのではなく、屋敷も人も、何もかもが消された。
そこでリュカたち黒幕が帰参する。




