最強の騎士③
結果を出して当たり前、最上の結果を得られる以外は失敗と同じ。
そんな背水の陣を敷いたリュカは――即日、騎士団長のレグルスを五体満足、生きたまま捕らえてきた。
レグルスは馬などを使えば間違いなく人の目に立ってしまうため、歩行で移動をしていた。
そうなると1日に移動できる距離などそう大した距離ではなく、鍛えられたレグルスであってもおおよそ50kmが限界であった。
そうして4日ほどかけ、アヴァロン王国側に200kmも移動していたのだが、帝都より1日どころか数時間でやってきたリュカによって捕獲されたのである。
一般的な旅人の1日20kmよりはずっと移動している。
馬も使わずに200km以上移動したことは、本来であれば賞賛に値する。
ただ、リュカが無茶苦茶なだけであった。
普通の追手であれば200kmの距離を探索しながら数時間で移動するなど不可能なのである。
リュカの能力を把握するために動いたレグルスであったが、その規格外ぶりを見せつけられるのであった。
捕らえられたレグルスは拷問にかけられ、情報を引き抜かれることになった。
「殺せ。俺は何も喋らんぞ」
騎士団長として鋼の精神を持つレグルスは、どのような拷問にも耐えられるように思われたが。
「頼む、なんでも話す。だから、もう止めてくれ。助けてくれ……」
数日で心を壊され、陥落することになる。
拷問というのは、そこまで生易しい物では無い。
人の尊厳を踏み砕き、更にその先を逝く恐怖を体に刻みつけることで、あっさりとその心をへし折った。
レグルスは確かに騎士団長という要職に就いていたし、いくつもの戦場を経験している猛者である。
だが拷問に耐える訓練などしていないし、そのような時間があれば戦場で生き残る訓練を積む。
そもそも、戦場の地獄と拷問の悪夢は全くの別物であり、種類が違う。
普通に生きていようと戦場に出ようと、本来であれば味わう可能性の無い苦痛と回復魔法の組み合わせにより死んだ方がマシという目に遭い続けたレグルスの心が折れたとしても、何の不思議も無いのだ。
こういった仕事を下手な拷問吏に任せた場合、喋り出す前に廃人になってしまう。
本当のことを喋れる程度に壊さず心を折ることが難しいのだが、帝国の拷問吏は優秀だったようである。
レグルスから得られた情報は分析のためハヴェストに届けられたが、そのほとんどが価値の無い話である。
死んだことになっていたレグルスの妻はシャルロットの伯母で、今回の計画は彼女の仕込みであった。
その彼女は行方が知れず、アヴァロン王国で合流する予定であったが、合流地点はもぬけの殻というか、足取りを追うための手がかり一つ無い。
それに、レグルスの妻はそこまで賢いという話も無く、彼女自身もレグルスを動かすための駒でしかないと予想された。
伯母として姪を蔑ろにした事とか、あの一件で王国の評価を下げてしまったことの逆恨みとか、帝国への恨み辛みを煽られて動いたようだが、だからどうしたという話である。それが黒幕に辿り着く決め手になりはしない。
レグルスの妻を煽った、唆した誰かが分からない。
レグルスからは、何の情報も得られなかった。
ただ、リュカは全く違うところから情報を得ようとしていた。




