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最強の騎士②

 リュカが動く。


 この宣言は、敵対勢力への宣戦布告であり、示威行為である。

 人が一人動くだけと言えばそれまでだろうが、その一人がリュカであれば帝国の最高戦力が動くという事であり、絶対に勝利しなければいけない戦いとなる。



 もしもリュカが動いても問題解決がなされないのであれば、それは帝国にとってこれ以上なく大きな打撃となる。


 安全策を採るのであればリュカが動く事など宣言せず、ただ結果のみを語ればいい。

 それをしないのは、そうすることで皇城で起きた事件の衝撃を和らげ、帝都の民に帝国が健在であることを示すためだ。

 そしてリュカが問題を解決することで、帝国に逆らおうとする者の心を折ろうという訳である。


 少々の策を弄そうが、それを圧倒的な力でねじ伏せる。

 それが出来ると、それが最強の騎士なのだと、リュカは帝国中に響けと、天に向かい高らかに吼えた。





「あああ! 確かに条件は満たしているけどさ!!」


 リュカの行動に、ハヴェストは頭を抱えた。


 本来であれば騎士たるリュカは、自分の意志で動けない。

 騎士とは国と皇帝の剣であり、武器でしかないのだ。

 武器は勝手に敵を定めて動かない。



 ただ、皇帝はリュカに対し、一つの権利を与えていた。


『もしも身内が害されたのであれば、騎士ではなく人として戦って良い』


 一応ではあったがマリアンデールを殺されたことで、この条件は満たしている。

 マリアンデールはディアーヌの妹であり、リュカの義理の妹にあたるので、一応は身内だ。

 リュカの怒りの理由は推測の中で我が子を攫われるかもしれないと、そちらが本来の理由なのだが、大義名分が成立している事に変わりはない。


 そういった言葉を弄せる程度に、リュカも貴族を学んでいる。

 ハーレムでただ遊んでいたわけではない。

 リュカは貴族になって5年程度だが、それだけあれば人は成長できるのだ。己の意を通すだけでなく、筋も通す程度の知恵が回る。

 


 一応ではなく、ちゃんと帝国の国益を考えている点も評価はできる。

 ただ、そういった利益を横に置いたとしても、できるだけリュカが動いたことを分からせず、速やかに問題を解決したかったというのがハヴェストの考えだった。


 彼は、敵がリュカの情報を集めてい可能性が高い事から、できるだけ情報を伏せつつ動きたかった。

 下手に宣言などしてしまえば、より、相手が動きやすくなるだけ。

 そう思っている。


「それが狙いなんだろうけどさぁ!」


 ハヴェストは、リュカがやろうとしている事の一端を正しく把握している。

 ちゃんと会話が成立するのだから、言葉足らずという事もない。


 相手が暴発して、おそらく城に残っているだろうネズミを炙り出したい。出来ればすぐにでも敵の“駒”も潰しておきたい。

 それは分かるが、それでも成功するかどうかはハヴェストの常識から言えば賭けだとしか思えなかった。



 相手は最強の騎士であり、ハヴェストはリュカに強く言う事などできない。


 立場の問題があるし、それ以上に怒ったリュカの前に立ちたくない。

 怖いのだ。リュカが。

 動き続ける事態に、姪が殺されたことすら頭の片隅に追いやり、ハヴェストは胃がキリキリと痛むのを感じるのだった。


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