帝国式・剣の指導②
剣の訓練が始まろうという時、一人の乱入者が現れた。
マリアンデールである。
彼女は自分も訓練に参加したいと言い出したのだ。
「あの……。私も、訓練に参加できませんか?」
「ふむ。俺では判断しきれないな。勝手に決めるわけにはいかん。
なにしろ、嫁入り直前の娘だからな」
話を聞いたベルナールの反応は淡泊である。
自分が関わる話ではないと、バッサリ切り捨てた。
これは複雑な思いを抱く兄の娘だからというわけではなく、言葉通りの理由だ。
責任能力が無いことに手を出さないのは、大人としては常識的な対応である。
付け加えるなら、報酬の提示も何も無いような仕事を引き受ける理由も無い。
本気で引き受けて欲しいなら、相手の善意に縋るだけの「お願い」などしないからだ。その時はちゃんと「依頼」をする。
ベルナールは、マリアンデールが本気で言っているのでは無いと判断した。
「叔父様! どうしても、駄目でしょうか?」
「駄目だ」
「私からも許可を出すことはできないね。マリー、諦めなさい」
「そうだね。止めておいた方が良い」
なぜかマリアンデールが食い下がったため、ベルナールは更に素っ気なくお願いを退ける。
そしてそれを横で聞いていたハヴェストもベルナールの意見に追従する。同じく、リュカも賛同しない。
残る侍女の方も同じであり、特に彼女は約束を破ってリュカに関わろうとしたので、「しょうがないなぁ」と言う雰囲気の男たちよりも強い視線でマリアンデールを睨んでいる。
「結婚する前に、少しだけでいいのです。駄目、でしょうか?」
「それに頷ける奴が、ここには居ないんだよ」
自由にならない立場の説明、マリアンデールは上目遣い、涙目、震えるようなしゃべり方と、女の武器を使って懇願するが、それに反応する男はここにはいない。
ここにいるのは政治的に重要な立場にある男たちであり、姪の我が儘と公的な立場を混同しない分別を持っている。
たかが剣の訓練、ちょっとぐらい、などと甘い考え方はしないのである。
むしろ姪を相手にしているからこそ、より厳しくなる。
個人的な感情論を言えば、リュカはやらせてもいいとは思っている。
だが、それには筋を通し、正しい手順を踏んだ上で自分の意見を通す習慣を遠ざけることになるので、安易に許可を出さない。
人事を尽くした上でのお願いならともかく、突発的で横紙破りの我が儘を聞き入れることが相手のためになるとは思えなかったのだ。
だから、リュカはこう付け加えた。
「ここで何を言っても意見は通らないよ。まずは父親である殿下と話をして、それから剣を学べばいい。
話し合う前から「きっと駄目だから父親には言わない」なんて考えず、許可を貰えたのなら、一緒に頑張ろう」
リュカは筋を通せという言葉を婉曲的に表現し、マリアンデールに笑いかける。
わりと、不必要な言葉をかけてしまう。
言質を取られたリュカはそれに気が付かず、数日後、マリアンデールが剣の訓練に参加することになるのであった。




