リュカの親類④
子供がたくさんいるというのは、いろんな子供がいるという事だ。
皇帝の息子であったとしても、そこは一般の子供とあまり変わらない。
兄弟姉妹であったとしても性格や能力は千差万別、教育で矯正できる範囲というのは以外でもなく、少ないものだ。
そして、この世界では「魔力」という生まれだけで決まってしまう才能が有るので、それはより顕著に表れる。
皇太子と同腹の弟、次男に当たる「ベルナール」は、いないものとして扱われる不遇の男だ。
彼は豊富な魔力を持つはずの皇族でありながら、一切の魔力を持たないというかなり珍しい存在である。
はっきり言ってしまえば、帝国の皇族、その凋落の象徴のように見られており、実の母親からも疎まれているのだ。
彼は魔法に嫌われている事を受け入れ、足りない才能を剣の腕で補おうと思ったため、今は一般の将官という扱いを受けていた。
一応、教育はちゃんと受けている。
剣の腕も悪くない。幼少のころから剣を習っているので、普通に強い。
血筋の方がマイナスに影響しているので上級将校ではないが、悪い扱いは受けていないというのがベルナールの立場だった。
「へぇ。あの魔法特化が、剣を扱うねぇ」
「子供に尊敬される父親を目指しての事らしい。貴族ならば剣を扱えるものだからと」
「いやいや、重畳重畳。実際、悪くない判断だろう。いつか子供に剣の振り方を教えるのも、親としては悪くない。
で。腕前は?」
「習い始めたばかりで、素人に毛が生えた程度らしいな」
「ま、そんなもんか。俺たちと違い、子供のころから剣を振っているなんて話は無いわけだからな」
ベルナールはリュカの剣の教師にならないかと、ハヴェストから話を振られていた。
曰く、「いつまでも女に剣を習うというのも体裁が悪いだろう」という事だ。
男尊女卑がまかり通っているので、「どうせ剣を習うのなら男から習うべきだ」という陳情を受けて、こういう流れになったのだ。
話を持ってきた貴族は、自分の意見が通ればそれでいいという狙いだったため、「公平を期すため、私自身がその役を任じられるつもりは無い」と言って逃げている。
結果が出なければ首を切られかねないので、意見を思いついたのは良いが、重い責任からは逃げたのだ。
「ああ、話は引き受けよう。確かに、俺が適任だ。
オーギュストの兄貴にも貸しにしておけるのは悪くない。ああ、ちゃんとやるとも」
「一応、貸しの件は言っておこう。……期待するなよ?」
「いいや、期待するね。その方が楽しいだろう?」
ベルナールとオーギュストの仲は複雑である。
人間的に嫌っているわけではないが、実の兄弟で格差が大きすぎるため、ベルナールは周囲からオーギュストの出涸らし扱いを受けてきた。
オーギュスト本人からは何もされていないし、逆にフォローしてもらっていたが、それだけで埋められるほど溝は浅くない。
嫌ってしまいたいが、嫌いになりきれない。そんな感情を持っている。
その後の弟は兄ほど優秀ではなかったがちゃんと魔力持ちだったため、こちらからはかなり馬鹿にされている事もあり、かなり仲が悪い。
別腹の弟であるハヴェストとは普通の関係だが、他とは殺し合いになりかねないほどなのだ。
最初は下の弟が悪いと言い切れる状態だったが、今ではベルナールの態度も最悪であるため、オーギュストは頭を悩ませているという。
付け加えると、下の弟たちはその性格を考慮し、リュカへの接触禁止命令が出ていたりする。
話がまとまったところで、ハヴェストは一つ、頼まれごとを思い出した。
「そうだ。リュカが剣の訓練をする風景を見たいと姪が言っていたので、見学させてくれ。遠くからで構わない」
「こっちに影響が無いなら好きにしていいぞ。ただ、話しかけるとかそういうのは止めてくれよ」
「もちろんだ」
兄嫁の妹から頼まれた、お願い。
難しいものでもなかったので、軽い気持ちでハヴェストは頼み、ベルナールは二つ返事でそれを受けた。
姪の気分転換だ。遠巻きに見るぐらいは構わないだろう。
望まぬ結婚に悩む姪への、ささやかな贈り物。
ささやかな、で済まないのは、それを外から見ていた人間の、共通した予測であった。




