リュカの親類③
リュカの妻であるディアーヌには、多くの姉妹がいる。
従姉妹についてはあまり数がいないのだが、同じ父親を持つ姉妹であれば、そこそこの数がいる。
父である皇太子は数名の妃を娶っており、息子も娘も多くいると、ただそれだけだ。
皇太子の娘の場合、基本と言うよりほぼ確定で政略結婚の駒として扱われている。
例外は不具の娘で、身体的・精神的な欠陥さえなければそのように送り出される。
結婚相手にある程度口を挟む事はできるが、その希望がどこまで通るかについては、本当にただの運でしかない。
ディアーヌのように想い人とまでいかずともある程度年が近い相手であれば幸運であり、運が悪ければ父親よりも年上の後添えをしなければいけない。
それが、高貴なる者の務めだからだ。
人は生まれを選べず、生き方も縛られている。
そういうものだと、受け入れ、諦めねばならない。
本来なら。
「ああ、もう。私もリュカ様の所に行けないものかしら。この際、妻の立場も要りませんの。あの男と結婚するよりは、ずっと良いでしょうに」
「姫様。それを仰るのでしたら、もっと早くにお願いすれば良かったのでは?」
「仕方が無いでしょう? あの時の私は、リュカ様が怖くて仕方が無かったのですもの」
ディアーヌの妹の一人、マリアンデール。
年は16歳。
リュカと出会った頃のディアーヌを一回り幼くしたように見える彼女は、最近決まった縁談に、盛大に愚痴を漏らしていた。
と言うのも、彼女の夫となるのは近衛騎士団の騎士団長であり、父親よりも10歳も年上の男だったからだ。
最近、彼は妻を流行病で亡くしたので、その後添え、後妻としてマリアンデールが選ばれてしまったのだ。
16歳の少女が50過ぎの男の妻になる。
実際はただのトロフィーのような扱いで、妻どころか女として求められておらず、浮気も黙認される立場だが、そんな事は少女にとって関係ない。
彼女は、どうせ結婚するならせめてごく普通の結婚であってほしかったと、そう言っているのだ。
そうでなければ結婚したくないと、そのように喚いているだけだ。
……喚いてはいても、それを受け入れなければいけない事は、理性はちゃんと承知していたのだが。
感情が追い付かないのだ。
自身の運命に納得できず、叫んでしまう程度に、怒りを感じている。
もしも道筋が見えるなら、皇族として生まれた事、育てられた事など意に介さず、逃亡を図るだろう。
そうしないのは、逃げるあてなどどこにも無い事を知っているから。
何をすれば成功するかも分からないような状態なので、動かないのではなく、動けないだけなのだ。
従者の女性は、マリアンデールの我が儘に、ちょっとした思い付きを口にする。
「ならば、一度リュカ様と直接お会いしてみますか?
お声掛けすることは叶いませんが、会うだけならば手配できます」
所用にてリュカの所に行くことが決まっていた彼女は、彼女の権限の範囲でそれが出来るところにいた。
だから自分がいなくなる前に、ちょっとした贈り物のつもりでそれを口にする。
マリアンデールは降って湧いたその幸運を掴むべく、二つ返事で提案に乗るのだった。




