リュカの親類①
よく知られたリュカの趣味は馬である。
時々だが競馬場でその姿を見かけるので、馬を見ることが好きだと誰もが知っている。
あまり知られていないリュカの趣味は彫金である。
これは身内にしか作品を渡さないため、周囲に情報が拡散しないのが理由だ。リュカと彫金の組み合わせなど、普通は誰も思いつかない。
そこへ新たに剣術が加わったわけだが、今回の趣味は周囲があまりいい顔をしない。
基本的に、リュカが魔法抜きの荒ごとに手を出す意味は無くむしろ可能な限り遠ざけておきたいというのが本音なのだ。
一時的に利益、リュカと個人的なコネを作ることに成功した家以外が遅まきながら文句を言い出した。
リュカに剣を学ばせるのはいかがなものだろう、と。
自分たちが利益を得られないと分かると、クルクルと手のひらを返したのだ。
「そんな事を言い出すならばもっと早くに言えよ」と思いつつも、リュカは彼らの相手をする事になるのだった。
リュカは基本的に温厚であり、上からの指示には素直に従う性格をしている。
ただ、言われたことに従うからと言って自分を持っていないわけではなく、無茶な事を言われれば不平不満の類を抱くのだ。
そこを弁えている人間は“お願い”をするにしても言い方を考えるし、大枠では相手の要求を呑みつつも自分の望む方向に修正を加えるだけに抑える。
今回の場合で言えばリュカの安全確保が第一なので、剣術の訓練そのものや定期的な模擬戦ぐらいは認めつつ、外では剣に拘った戦いをさせないといった形にまとめる。
実戦だけは止めてくれ、と言う訳だ。
しかし、そこが分からない愚か者は、ただ自分の考えだけをぶつける。
リュカの感情を無視する形で。
そしてこういった陳情を行うのは、たいてい責任能力の無い、ただの考え無しなのである。
「それで。ロッサーナ卿は、リュカに剣を取るのを止めるようにと言っているのだな?」
「ええ、その通りです」
リュカに直接何かを言える立場にあるのは、帝国でも皇室だけである。
他の者はたとえ王族であったとしても、帝国の公爵であっても、皇室に一度話を通し、許可を得る必要がある。
「しかし卿は模擬戦の相手に自分の孫をと考え、例の試験に送り出していたな。そういう話であれば、なぜその前に言い出さなかった?」
「そ、その時は、その……」
「もうよい。帰るがいい」
こういった陳情に応対しているのは皇帝や皇太子ではなく、皇太子の弟たちだ。
彼らは帝国の武官・文官として出仕しているので、リュカ関連の陳情に駆り出されやすい。そしてこの手の陳情は数が多いため、彼らはなかなか忙しい。
リュカが何かするたびに仕事が増えるのだから当然だ。
リュカのおかげで安定した統治ができる帝国だが、リュカの為に忙しい思いもしている。
帝国とリュカは、持ちつ持たれつの共生関係にある。




