父の背中④
リュカの野望はいったん潰えたが、彼はまた新たな方法を考えつく。
自分は軍人、騎士なのだから、剣の訓練をして立場を固めようというのだ。
訓練をしているのなら、少なくとも普段から遊んでいるようには思われまい。
リュカ自身は剣の訓練というのをほとんどしておらず、兵士時代に槍を持たされていただけだが、「騎士なら剣の訓練を」と考えたのだ。
実際、貴族階級は槍よりも剣を貴ぶ風潮があるので、そのイメージを意識しての事だ。
兵役などで徴用された兵士は槍と盾、常備戦力としての正規兵は弓と槍、そして騎士は馬上訓練に加え剣と突撃槍、弓その他と多岐にわたって戦い方を学ぶ。
槍と剣では使う金属の量が大きく違うので、剣は正規兵以上にしか使わせないのだ。しかも槍の目的が馬の突撃を防ぐ役目なので、鉄を使わず青銅の穂先である事が多い。
帝国内でも国によって多少の差異はあるが、だいたいこのパターンが多い。
馬はすでに訓練中。むしろ趣味を兼ねて乗る機会も多い。
リュカはどうせだからと、今から剣を学ぶつもりになっていた。
「……では、素振りからお願いします」
「ああ、分かった」
剣術の基礎は素振りである。
リュカは型の一つを学び、それをひたすら繰り返す事を求められた。
ハーレム内には護衛騎士の名目で妾が派遣されているので、彼女らの一人を講師に訓練を始める。
彼女らもその剣の腕を振るう機会が無かろうと、一応は訓練を続けているので、その中に混ざっての訓練だ。
「リュカ様。型が崩れています。振る速度は遅くとも構いません。綺麗に剣を振ること、それを意識してください」
「リュカ様。慣れるまでは回数をこなせないのは当たり前です。あまり無理をなさらない方が……」
「あの、リュカ様。体力の限界に挑戦する必要は無いのですよ? 素振りはあくまで体に剣の振り方を叩き込むためのものなので、回復魔法を使われないと、むしろ効率が落ちるのですが……」
しばらくリュカが剣を振っているが、慣れない事をしているのですぐに疲れが見え始める。
リュカはそれを練習不足と考え、必死に剣を振る。
練習不足は間違いないが、リュカが剣を振れるようになる必要はそこまでない。走り込みなどはしているので、基礎体力もある。
ここで頑張らせるより、他で頑張ってほしいというのが周囲の意見だ。
訓練とは言え、これもある意味では趣味でしかないので、リュカの体調に配慮して無理をしないようにと理屈を並べ立てた。
リュカの意思を尊重し訓練そのものは続行させるが、体力的な負担をかけない方向で、である。
これによりリュカの習慣に剣の素振りが追加されたが、本職に大きく劣り、そもそも戦う時は魔法を使えば大体問題無いので特に意味はない。
周囲は「本当にこれでいいのか?」と悩むが本人が納得しているので、それでいいかと無理やり納得することにした。
事の本質としては、リュカが子供に尊敬されるかどうかなのだが……。
結果が出る数年後にどのような評価が下されるかは誰にも分からない。




