父の背中③
リュカの稼ぎは、主にハーレムの運営費用として充てられる。
ある程度の金額、ほぼ2年分の運営費用を貯金として割り当て、残った金額はハーレムでほぼ使い切るようにしている。
リュカに回ってくる仕事というのは少ないのだが、さすがに1年間も放置されるという事はまずありえないため、2年分の運営費用さえ確保しておけば問題は起きないという考えである。
もしもそれで運営費用が足りないとなれば帝国が一時的に費用を捻出し、ハーレムを維持するように努める。
ハーレムは国策なので、本来は最初から最後まで帝国がお金を出してもいいのだが……リュカという男は、収入に見合う支出が無いため、ちょっとでも理由を付けて資金を吐き出す必要があったのだ。
金持ちが金を使わなくなれば、経済が死ぬ。
特に、貨幣経済のうちは。
信用通貨、紙幣が出回るようになったところで、同じ事が起きるのだ。
金持ちが率先して経済を回さない事には国が発展しない。
リュカという存在の難しさは、特に経済方面で人を困らせる。
「リュカよ。お前を動かさねばならぬほどの任は無い。今は待機せよ」
「はっ、分かりました」
仕事が無ければ、仕事を貰いに行けばいい。
そんなうまい話は無い。
リュカは基本的に、居るだけで価値があるという存在だ。
自由に動けるようにしておくと、それだけで周囲のけん制になる。
逆に、仕事を与えているときはリュカの介入が無いと思われ、帝国内を乱すこともあり得る。
リュカは帝国内でもそれだけ存在感がある。
あえて仕事をしなくとも居るだけで仕事をしているのと変わらない、やるべき事をやっているのだから、気にしなくてもいいだろうと皇太子は考える。
いや。
夜の仕事をこなしているので、精力的に働いていると見ることもできたのだが、誰もそこには触れなかった。
リュカの求めているものとは違うので、触れた所で意味が無かったとも言う。
子供を売るような事を、仕事と言って胸を張る父親はいない。
リュカにお金を払ってまで何かするときは、リュカにしか任せられないような難事であるか、国難か。
人手がどうしても足りないとか、喫緊の事態である事ばかりである。
それ以外で安易にリュカを使えば人手があまり、民が困窮する。
為政者は民に仕事を割り振る事を考えるので、リュカに任せれば安くつくからと言ってそちらに金を回してばかりはいられない。
皇太子はリュカを軽く扱う気など無いのだが、それでも国の運営でやっていい事といけない事の線引きははっきりとする。
我が儘を聞き入れることはしなかった。
子供に良い所を見せたいリュカとしては、ハーレムで何も仕事をしていない現状をどうにかしたいという思いがある。
書類仕事などは嫁たち(ただしコレットは除く)がすべて処理するため、そういった仕事は回ってこない。
手持ちの金で何か事業の一つでも起こせばいいのかもしれないが……リュカの場合、魔法で解決することが最初に思い浮かんでしまうため、あまりそういう事が得意ではない。
そもそも、そちらはセレストの方が優れているので、比較されて情けない思いをする可能性の方が高かったのだが。
リュカの考える「尊敬される父親」への道は、まだ遠い。




