骨に肉はつかず
リュカの精神が不安定になっている。
帝国は、この緊急事態に大いに慌てた。
もともと、リュカにハーレムを持たせ子供を多く作らせることは国策で決まった事だ。
そして強制してリュカに逃げられぬよう、本人との相談により妥協案として現状がある。
一応、形の上だけだが、リュカ本人の許可を取ったうえでハーレムは運営されているのだ。
しかし、リュカの精神はハーレムに適応しきれていなかった。
表面上は理解を示していたが、あくまで表面上の話。理性が出した結論だ。
内心ではハーレムを拒絶し、気が付かないうちに摩耗していたのだ。
子供ができるというのは、本来は人生でも大きな変化のはずだ。
それが何人も続けて産まれるとなると、心が現実に追いつかなくなる。
おおよそ1年に一人が上限の母親と違い、リュカは一度にたくさんの子供を得るので、理性も感情も付いてこれない。現実はリュカを置き去りにした。
リュカが子供を愛せないと嘆く理由の一つは、この急激な環境の変化にある。
もっとゆっくり子供が増えていくのであればリュカも大丈夫だったのだが……。
「一度、リュカに休暇を出そうと思うが、それでは周囲が納得しない。
リュカの奴には極秘任務で、しばらく皇宮に潜伏してもらう」
リュカの状態を見抜いた皇帝は、リュカの感情が落ち着くまで、思考が整理されるまで、ハーレムからリュカを引き離すことにした。
近くにいてはどうしても意識してしまうだろうから、数日でもいいのでハーレムの外に置き、一人でゆっくりさせるべきだと、そう決めた。
こんな時は、一人の時間を増やすに限る。
「子供が一度に増えたのですから、しばらくは周囲も何も言わないでしょうが」
「いいや。業突く張りどもは、ここぞとばかりに自分の権利を主張するぞ。「もっと子供を作らせろ、そして自分にもリュカ殿の子供が回るようにしろ」とな」
「違いない」
リュカにハーレムという公務を休ませて休暇を与える場合、周囲は間違いなく文句を言うだろう。
リュカの一番の仕事は子供を増やす事であり、もっと腰を振れ、と。それこそが帝国への一番の貢献だと、派閥に関係なくこういう時ばかりは口をそろえる事だろう。
そしてリュカがそれを嫌がっていると、「楽な仕事など無い」「男ならそれぐらい楽しまないでどうする」などと言うのだ。
男が女を楽しむにしても、上限があると分からないのだ。仕事で女を抱くことは楽しくないと理解できないのだ。自身にはそういった経験が無いから。
そんな愚か者が騒ぐことは、最初から予想の範囲内である。
「これを機に動く者もいるだろう。
なに、リュカ本人にそういった連中の対処を任せるから問題無いだろう。そのための権限を皇帝の名で与えよう」
リュカに休暇を与えるついでに、仕事をさせようと皇帝は言う。
リュカの性格では、ただ休暇を与えると言っても責任感からハーレムから出ようとしないだろう。
だから仕事をするためだと言い切り、本人には休暇と言わずにハーレムから引きずり出す。
「まったく。人の心ほど面倒なものは無いな」
皇帝はリュカの扱いの面倒さに苦笑いをする。
平民上がりの最強騎士の扱いは面倒であるが、それ以上に利益が大きいので、捨てるという選択肢を選ぶことなどできやしない。
皇帝の苦笑いの中には、”喜”の感情が強く含まれていた。




