骨肉④
偉い人は言いました。
「考えてみると、答えが出そうで出ないものと、全く分からないものがある。
全く分からないときは、考えることを諦めろ。人に聞け。本で調べろ。考えるだけ時間の無駄だから、考えない方がマシだ。
もっと別な事に頭を使え」
迷える子羊のリュカは問いました。
そうしたら我が子を愛せますか、と。
「義務で愛を語るな。愛とは、自然に生まれるものだ。
それでも愛さねばならないのであれば、その子のために時間を使え。その子の事を考えろ。それも愛の形だ。最初は模倣だろうと、いずれ本物になる。
――他の誰かに使う時間と思考が無駄になるがな」
聞いたリュカは落ち込みました。
望んだ答えではなかったからです。
「全てにおいて、自分に都合の良い答えがあると思うな。
お前の人生を思い出してみろ。
どうだった? まるで自分の為にあるような人生だったか?
お前の場合、違うだろう。迷い、悩み、考え、努力して、それでも報われなかった事なんていくつもあるだろ。
それが、人生だ」
帝国で一番偉い人は言いました。
「悩んだ時に支えてくれる人がいる。
それを忘れないうちは幸せだ。人生捨てたもんじゃない。
人間っていうのは、集団を作ることを前提にしている。役割分担をして生きるんだよ。一人ぼっちで出来る事なんて意外と大したもんじゃない。
俺も、お前も、その程度の存在なんだ。例外なんて無い」
皇太子に子供の事で相談をしに行ったリュカは、なぜか皇帝の所に案内された。
そこで皇帝陛下御自ら、直々にありふれた言葉を頂いた。
皇帝といえど、愛やら家族やらについては一般人以下の存在でしかない。
相談に乗ってみたのはいいが、一般論を説くしかなかったのである。愛を求めたリュカに救いは無かった。
あったのは、ほんの小さな道しるべである。それも、非常に頼りないものでしかなく、リュカの悩みは解決しない。
リュカが悩み続けるというのは、それだけ付け入る隙を与えるという事だ。
可能な限り早く悩みを解決させるか、仕事を忙しくするなどして悩むこと自体出来なくするか。
それを自分の目で見て見極めようとした皇帝であったが、他の事を考えさせるのは無理だと早々に理解してしまう。
今のリュカは、何らかの答えが出るまで動かせない。
非常に危うい状態で、甘い言葉で簡単に騙されてしまうだろうことが分かってしまった。
皇帝自身、今のリュカを騙す事なら出来る。
しかし、それをすると後が続かない。
人の心は複雑怪奇だ。
皇帝は仕方なしに、やりたくない手を打つことにした。




