先送り不可③
リュカは自分独りで考えてもらちが明かないことを理解している。
これは自分だけの話ではなく、家族の問題と、国家の問題だからだ。
自分がこうしたいと思う事と、自分にできる事が違うというだけではない。周囲に納得させることも大事なのだ。
ただ、今回の件をディアーヌに相談したところで、色よい回答が得られるかは微妙なところだ。
ディアーヌは我慢している、抑えてはいるが、自分以外の女が産んだ子供を避けるようにしている。見ればあまり気分が良くないのだからと、関わらないようにしているのだ。
そこに「他の女が産んだ子供の扱いについて」相談するというのは、さすがに酷い話だろう。
三人目以降を理由に、どうしたいかを相談するのが限界であると思われる。
それでも8人の枠を考えれば、やはりほかの女との間にできた子供が脳裏をよぎるだろうから、あまり褒められた話ではないと思われたが。
マリアンヌやセレストの場合であっても、やはり相談はし辛い。
二人には悪いが、こちらは帝国の意図をどこまで汲み取れるのか、という問題があるからだ。
そこはディアーヌでも完全に対応できると言い切れないのだが、この二人よりも高い視点、帝国全体を俯瞰したうえでの判断ができるのは間違いない。
子供の事が帝国全体に関わるとは、皇族やリュカ以外の誰かが言えば不遜の一言で切り捨ててもいいが、リュカの場合は本当にそうなのだから仕方がない。
下手に自己評価を低く見積もり判断を誤るようなことをリュカはしなかった。
なお、一瞬でもコレットが相談相手として思い浮かばないのは当たり前であった。
彼女に相談するのは、色々と間違っているとしか言いようがないのである。
嫁たちが相談相手にならないとなると、他に話ができそうなのはディアーヌの両親、皇太子夫妻である。
幸い、娘のことが絡もうが、それと政治の話を切り離せる程度に理性的な人物たちだ。
立場としても、次期皇帝とその妃なので、申し分ない。
問題があるとすれば、立場上、仕事が忙しく相談に乗れる時間を確保できるかどうかというところだ。
もしも皇太子夫妻の時間が取れないようであれば、彼らが信頼できる人間を相談相手として紹介してもらい、軽く状況の整理と問題点の洗い出し、その対策案の提示をしてもらおう。
リュカ本人の考えがまとまらない部分もあるので、とにかく具体的な方向性を他人から提示してもらわないことには、自分は何を要求できるかも分からない。
現実への落とし込みをする以前の問題で、先が想像できないリュカには漠然とした願いしかない。
ただ人として幸せになりたいというのは、実際に難しい話なのだ。
権力と地位、金銭を含む財産、これがすでに満たされている場合、自由ぐらいしか望むものが無いようにも思える。
特に、暴力的な衝動や他人に無理難題を強いる種類の欲求を持たないリュカの場合、それが顕著になってしまう。
そもそも、幸せなどという物は存在せず、その形が一定であるはずがない。
リュカに幸せな未来を相談される人、相談に乗らないといけない人は、その期待と責任の重さが、きっと帝国で一番大変な人になるだろう。




