先送り不可②
リュカは一応、嫁以外の相手もしている。
もともとそのつもりで集められた女性たちであるので、行為を求められる側も素直に受け入れている。
手を出されなければこの場にいる意味が無いので、女性の方から求め、リュカが時折それに応じる流れだ。
これまではディアーヌの出産までは子供を産む予定が無かっただけで、無事に二度目の懐妊をした今は主家への配慮をする必要が無くなっただけである。
妊娠する者が相次いだのは、やる事をやっていれば出来るときは出来る、ただそれだけであった。
とある貴族は娘の懐妊に諸手を挙げて喜びを示した。
そのつもりで送り込んだ娘である。ちゃんと役目を果たした我が子を誇らしく思い、祝いの言葉と喜びの声、そして出産にあたり気を付けるべき事などを手紙にしたためた。
親として貴族として人として。
自分の手で孫を抱きあげたいがそれは叶わないだろうと思ったこと以外は、ただただ幸せな夢を見るのだった。
とある貴族は娘の懐妊を「まだ早い」と思い、苦虫を噛み潰した。
そのつもりで送り出した娘であったが、8人という制限が付いたことを踏まえ、それ以降の妊娠を願っていたのだ。そうなると娘としての期間を3年は捨てることになるのだが、それも貴族に生まれた者として、諦めて欲しかった。
この先に起きる争乱と、それを防ぐための暗躍と。
自分の周囲が俄然慌ただしくなったことに顔をしかめ、せめて娘の周りが無事であるようにと祈るのだった。
別の貴族はこれでリュカの子が我らのところにも来ると、待ちに待った展開に歓喜した。
リュカの子供は多ければ多い方が良い。そう思っていたのに、嫁が4人に妾が8人と数が非常に少なく、増やす余地が与えられていないことを悔しく思っていたのだ。
せめて嫁以外ももっと子供を作るべきだと思っていたのに、嫁を優先し他の女を孕ませないことに彼は苛立たしさを感じていた。
だが、これで状況がマシになる。
この貴族はようやく手が出せそうな利権を確保すべく動き始める。
別の場所ではリュカの子供をいかにして確保するかと、怪しい連中が相談をしていた。
リュカの子供とは言え、その手元にいないのであれば攫うことも不可能ではない。恐れるべきはリュカ一人であり、その他ではない。
攫い、自分たちに都合のいい思想を刷り込む。
リュカとその子供たちの台頭は、彼らにとって悪夢である。その悪夢を払う希望を彼らは求めていた。
リュカは子供たちをどうするか悩んでいた。
帝国との契約では、暫定ではあるが、手元に8人まで残し、それ以外は外で育てることに同意している。
その“外”の定義もあいまいで、逃れ様はいくつも用意されている。
ただ、結局はどこかで線引きが必要であり、父として、帝国の騎士として、どこかで決断を求められる。
我が子の幸せを守ること、騎士の忠義を示すこと。
両立させるための選択を求められる。
簡単に答えが出るようであれば、最初から皇帝らがその道を示している。
そもそも、答えがあるのかどうかすら誰にも分からない。
決断するまでの猶予は、おおよそ半年。
しばらくの間、リュカは眠れぬ夜を過ごすことになる。




