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暇人の末路

 今回の件で、ハーレムはかなり混乱した。

 セレストが酷い目に遭ったことに加え、侍女たちの暴走による配置転換など。

 悪戯や出来心で済ませられる範囲を超えている。


 よって、リュカは仕返しをすることにした。

 犯人の特定はすでに済んでおり、商会を経営するいくつかの貴族が関わっていることを突き止める。

 法で裁ける事をされたわけではないが、二度と同じことができないよう、その力の根源である経済力を削いでしまうつもりだ。



「セレスト。陣頭指揮は頼むぞ。

 それと。俺が手を貸すのは今回みたいに、俺たちに喧嘩を売られた時だけだ。商会に被害が出る様な真似をされても動くつもりはない。

 そこだけは勘違いするなよ」

「分かってるわ。

 それと、ありがとうね」


 相手の経済力にダメージを与えるため、リュカはセレストに新しい商会を一つ、プレゼントした。

 セレスト単独でも商会を作ることは可能だが、そこはリュカが手を出した方が速い。

 既存の商会で、同業他社の嫌がらせなどにより経営難に陥ったところを複数買い取り合併させる形で動いた。



 こういった商会は能力的なもので大きく劣っているわけではなく、他社からの嫌がらせへの対応力の低さ、この一点がダメだった為に経営難になるのだ。

 良いものを見極める目を持ち、他の商会への嫌がらせよりもまっとうな商売を心がけ、買い手のことまで気遣う優しさは確かに素晴らしい。


 ただ、暴力的な行為、嫌がらせに対し有効な対抗策が打てるかどうかは別問題で。

 小さく目立たないうちはともかく、ちょっと成功するとすぐに出る杭として打たれ潰される。

 それこそ、リュカの名前を看板として使えないうちは、何もできなかっただろう。


 現在はリュカが後ろ盾となったので、その名前だけで彼らは普通の商売ができるようになっている。



 そうやって複数の小さな商会を中規模の商会として運営するよう任されたセレストは、水を得た魚のように働き出す。

 リュカは耳の良さ(・・・・)でセレストへ情報をいくつも流し、売り上げを伸ばしていく。

 そして敵対商会以外とは上手く情報のやり取りを行い、需要という名のパイを上手く切り分ける。

 同業者も利益供与の理由を聞けばやりたいことを理解し、敵対商会の商売の目を潰していく。


 今後も同じことが続くのであれば、同業者たちはいい顔をしなかっただろう。

 自分たちのものではない情報源に商売を支配されるというのは、情報源を持つ商会の支配下に置かれてしまうという事だからだ。

 ただ、一時的なボーナス期間となれば話は別で、今のうちにコネを作り、販路を広げ、終わった後に強者として君臨すればいい。


 あとはまっとうに商売で勝負すればいいと、同業者たちは考えた。

 リュカのネームバリューは商業方面ではそこまで有益でもないので、下手な悪ささえしなければ、まっとうな商売で相手を叩き潰すぐらいなら、特になんという事も無いのだ。


 こうして、多くの商会を用いた経済戦が各地で繰り広げられた。



 結果が出るまで数ヶ月かかるのだが、状況を理解した敵対者たちはすぐにリュカを怒らせたと理解した。

 そして謝罪に足を運ぶのだが――謝罪される理由が無いと、謝ることすら許されない。


 彼らがリュカを怒らせたことはしばらくすると周囲にも伝わり、徐々に取引先を失っていく。

 残ったのは、潰れこそしなかったが規模が小さくなった商会と、身内の間でしかない小さな商圏。


 気が付かれることはないだろうと、法に触れず迂遠な行動をとってはいたが、それでもやり返される事はある。

 リュカを「魔法だけ」と侮ったことが、彼らの敗因だった。

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