暇人⑥
リュカが考えるに、今回の件はアホらしいと思うほど、手が込んでいる。
まず、セレストが出産時に死にかけたことはただの偶然だ。
ここに誰かの意図はない。
ただ、その後の侍女の暴走には、明らかに思考誘導が入っていた。
「セレストが大事である」という感情を刺激するように干渉されていた。
通常、女性の出産というのは危険が付きまとう。
庶民であれば出産時に何かあっただけで死んでしまうことも珍しくなく、その確率は8%ぐらいであった。
12人のうち1人が死ぬ。
これを多いと捉えるか少ないと捉えるかは人の感性による。
今回、侍女たちは「多い」と思うように誘導された。
嘘の情報を侍女に流すのではなく、「実際にあった不幸な出来事」の事例を使って「セレストの不幸」へと思考を誘導していた。
この話だけなら「セレストを心配していろいろ教えた」だけで済むところだ。
セレストの気性に詳しくないはずの誰かであれば、心配の方向性が「大事にする」「仕事をさせない」であったとしても、何も問題ない。
ただ、今回の件はちょっとではなく、かなりタチが悪い。
短い者でもセレストに仕えて1年以上経っているというのに、セレストのことを知っている部下が暴走したのだから。
しかも、リュカの忠告を無視する形で。
侍女たちから話を聞きだしたところ、彼女らの中にはリュカへの不信、ほんの少しの疑問を覚えるような事をセレスト出産以前に言われていた。
リュカに対し不敬にならず、疑われたところで言い逃れできる程度にと、自分たちの安全をしっかり確保して。
上手くいかない可能性も高い工作を、チマチマと行っていたのだ。
今回の件は、非常に手間暇をかけている。
そして一般的な評価として、上手くいったと言ってもいいだろうが、普通に考えれば失敗の可能性の方が高かった。
そこで、リュカはふと思い出す。
セレストが富くじを当てたことを。
もしかすると、富くじのアタリも操作されたものだったのかもしれない。
リュカはまさかな、と思うが、自分の勘が“それが正解だ”と言っている。
成功よりも失敗の可能性が高い。
なのに、注ぎ込んだ手間と労力はかなりのもの。
どこの暇人だ。
リュカはまだ見ぬ“敵”を、そう評価するのだった。




