暇人⑤
「旦那様の言いたいことは分かりました。万事、お任せください」
「ありがとう、ディアーヌ」
セレストが寝込んでいる間に、侍女たちの処分が決まった。
全員降格とし、下働きからやり直せ。
リュカは彼女たちを完全に追い出すようなことはせず、一見すると温情を与えたような采配をした。
周囲に求められ事情を話すと、「もっと厳しい罰を」という者も「彼女たちに今一度機会を」という者も、どちらも引き下がる。
ただ、事情によりこのような結論に至ったリュカ自身が、一番面白くなさそうであったのだが。
セレストの侍女たちが抜けた穴は、主にディアーヌの侍女が埋めることとなった。
コレットやマリアンヌの侍女たちも、セレストの侍女がやっていた仕事を一部引き継ぎ、ハーレムの運営に支障が出ないようにする。
人間10人分の仕事があったとして、その仕事をやっていた誰かを排除し、新しい人を10人、代りに据える。
確かに同じ10人であるが、人が変わってすぐに上手くいくというのはあまり聞かない。引継ぎが急であればあるほど現場は混乱し、齟齬が生じる。
セレストの侍女を下働きにして、下働きをしていた者たちの地位を少し上げ新しい仕事を任せ――多くの者の仕事の割り振りが大きく変わる。
どうしても上手く仕事が流れるまでには時間が必要であった。
別に、こうした混乱によりセレスト向けの仕事を作ろうとしているわけではない。
そうしないといけないから、そうしただけである。
「やっぱり。人の募集に対して動きが速い」
いきなり全員を首にして追い出せば、ハーレムの運営に支障が出る。
なので、人員の入れ替えをするにしても段階的に行うべき。
また、重要な仕事を任せるのに必要なのは、能力よりも信用の方が大事だ。
無能と言われるほど酷くない、それよりも人格の信用できる女性を多く集めることは難しい。
そして有能であるということは重要な仕事を抱えているという言い方もできて、簡単に替えがきかず動かしにくい人材が多いのだ。
そんな何かと調整が難しい話であるのに対し、あらかじめ人の募集があることが分かっていたかのごとく動いた連中がいる。
機を見て動いたのではなく、機が来ると予測して用意していた人間のそれだ。
こうなるように仕組んだ者がいる。
リュカはこれまでの情報を整理し、「敵」のあぶり出しを行うことを決めた。




