暇人③
ディアーヌというまともに話し相手になってくれそうな人間も、セレストと話す機会が減った。
お酒が絡まなければ大丈夫と分かっていても、一度やらかしてしまえば足が遠のくものである。
そして残るコレットは話し相手としては論外なので、セレストはやはり暇を持て余していた。
セレストは仕事に集中すると自分の事を顧みず無理を通す傾向があるため、仕事はさせてもらえない。
体を壊しかけたため、運動も軽い物が限界だ。しかもすぐにストップがかかる。リュカが体を治したというのに。
子供の世話すら時間制限がかかるとなると、いよいよやる事がなくなってくる。
食事も睡眠も満足いくだけ得られるが、余暇を潰す手段が無いというのはとても辛い。
これで不摂生、食に逃げられればまだマシなのだろうが、セレストは出産による体形の崩れをどうにかしようとしていたので、暴食と言う手段も取れなかった。
こうなると、今のセレストの扱いは拷問のようなものである。
セレストはそんな時間をしばらく過ごした。
「さぁ、今日から働くわよ!」
「姫様、お体の事を……」
「これまで働けなかった分を取り戻すのよ。無理はしないけど、全力でやるに決まっているでしょう!」
「ああ……」
「無理を言って休ませた反動だ。
だから、もう少しセレストの事を考えておけと言ったのに」
周囲の者、侍女たちは嫌がったが、セレストの窮状を見るに見かねたリュカが、セレストに仕事を振るように指示を出した。
ようやく解放されたセレストは気合十分、やる気に満ち溢れているが、そんな姿を見れば侍女たちはセレストが無理をして体を壊すのではないかと気が気でない。
そんな姿は押さえつけられていたからなので、セレストを心配する侍女たちを、リュカは呆れたような目で見ていた。
世の中には、仕事が好きで仕事をしていないと落ち着かない人間がいるのだ。
こういった気質は、もっと年を取らないとなかなか丸くならない。
セレストが大人になるのは、まだ当分先のようであった。
このとき、リュカはセレストの性格などを考慮し、仕事でほんの少しだけ無理をさせるつもりでいた。
これまで長い間お預けを食らっていたのだ。体がちょっと無理をするぐらいで気持ちの方はちょうどいい、そうなるだろうという判断だ。体の方はちゃんと治したのだから、ここで1日無理をさせるぐらい、大した事ではない。
今日は無理をさせ、明日以降はそれを理由にしばらく仕事を減らす。あとは様子を見て仕事量を元に戻せば完璧だ。
そのように考えていたリュカは、セレストの侍女たちに考えを説明し、今日一日は好きにやらせよう、思いっきり仕事をさせてあげたいとお願いをした。
ただ、侍女たちはリュカのお願いよりも自分たちの判断を優先させてしまう。
命令ではなく、お願い。
だからこそ、セレストの体調を何よりも優先に考えてしまう。
出産のときにセレストが死ぬかもしれなかった事がトラウマになっているのだ。
だから、リュカのお願いを無視し、セレストに渡す仕事を減らした。
その方が、よほど残酷であるというのに。




