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暇人①

 セレストが出産した。

 産まれたのは女の子。

 ジェラールやクロエほどの魔力は無い。そこまで大きな差はないけれど、これまでの子供の中では最下位となる。


 この結果にディアーヌはほっとしただろうと周りは言うが、実際にそのような姿を見た者はいない。

 むしろクロエの時のような事にはならないだろうと、世話役を命じられていた侍女たちがほっとしている。


 この子は「テレーズ」と名付けられた。

 今は元気にお乳を飲んでいて、魔力こそ他の子よりも低いけれど、3人の中でも特に大きい子になるだろうと皆が噂していた。

 さすがに3人目となれば、侍女の皆も慣れ始めている。



 娘のテレーズは元気で健康であるが、母親であるセレストはずいぶん出産でダメージを負ったようだ。

 リュカのフォローがあったからこそ生き残っているが、父親がリュカでなければ、リュカのフォローが無ければ出産時のショックで死んでいたかもしれない。


 リュカの魔法で体を癒してもらっても、ダメージを負った事実は消えず、セレストは絶対安静を言い渡されていた。





「暇です」 


 セレストは一人、外を眺めていた。

 侍女は部屋の隅で待機しているが、リュカや他の嫁仲間が居るわけでもない。

 セレストは話し相手もおらず、ただじっとしている事を強いられていたのだ。


「はぁ。仕事でもやらせてくれればいいのに」

「セレスト様、どうかご自愛くださいませ。ただでさえ出産で体に障りがあったのです。

 母になったばかりで無理をすれば取り返しのつかない事になりますから、ここは私どもの顔を立て、どうか大人しくしていてください」


 話しかければそれに応えてはくれるだろうが、この侍女たちは国寄りの考え方、セレストを縛るような事を言う。彼女にとってあまり話したい相手ではなかった。

 言い分は理解するし従いはするが、心から納得しているわけではないし、可能ならばもっと自由にさせて欲しかった。

 リュカが体を治していた事もあり、病人扱いされることが苦痛であったのだ。



 もしもリュカが自由に動けるようであればもう少し適切な対応をしただろうが、残念ながらリュカはマリアンヌに付きっきりであった。

 今度はマリアンヌの出産を控えているので、どうしてもそちらが優先になる。

 セレストも、自分の出産間近は優先してもらっていたので、その事に文句を言えなかった。


 付け加えるなら、これまでに出産をしてきたディアーヌやコレットがあまり我が儘を言っていないので、セレスト一人が強く文句を言う訳にはいかない。

 そこは、一国の姫としてのプライドが優先された。



「お仕事がしたい」


 セレストの嘆きに応える“誰か”は、この部屋には居なかった。


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