一攫千金④
商売とは機を見るような商人の才能による部分が大きいものの、それ以上に幸運が求められる仕事である。
いわゆる、“持っている人間”でないと大成しない。
そして持っている人間の幸運は商売をする関係者にも波及し、本人の中に納まらないものだと信じられている。
つまり、商人の言う幸運とは、多くの人を幸せにする力と言い換えることもできた。
そして、逆に持っていない人間は、商人から敬遠されてしまう。
結婚以前までのセレストがその典型であり、だからこそ彼女は幸運というものを大切にする。
「いや、本当に驚いたよ」
「私だって驚いたわよ」
富くじにより、独自の予算を得ることになったセレスト。
これまで彼女が持っていた資産のほとんどは、王族であったが故に手に入ったお金、あまり自由に使えない資金であった。
言い方は悪いが、国に紐づけされた「予算」とも言う。
何をするにしても記録に残し、額次第では許可の必要なお金であった。
商会を再建することは許可されており、ある程度の資金であれば使う許可を得ていたものの、どうしても他人のお金では枷ができてしまう。
自由なお金とは言い難く、下手をすれば商業活動に口を挟まれる恐れすらあった。
そこに、自由に使えるお金が転がり込んだのだから嬉しくないはずがない。
セレストは今後の予定をリセットし、新しい行動計画を立てたくなるほど浮かれている。妊婦であることを忘れてしまいそうなほどであった。
リュカはそんなセレストに苦笑いをしているが、今はまだ諌めるつもりはない。
こんな時はある程度好きなようにやらせ、外からこっそりフォローする程度がいいと思っているからだ。
多少の釘は刺すけれど、慌てて抑制するほどでもなかった。浮かれているのは確かだが、その程度にセレストを信用している。
今回の件で、セレストの“幸運”は周囲に伝わり広がるだろう。事実なので、疑いようもない。
そうなればセレストの元には、その幸運にあやかりたい商人や、そんな幸運な女性の元で働きたいという人が集まることになる。
もともとリュカの妻ということで、リュカ目当ての人を集めることは簡単だったのだが、これでセレスト単独でも人を集めることが可能になった。
これからのことを考えればリュカと別れるということも選択肢として選べるようになったセレスト。
リュカの横に立つメリットについては疑いようもないほど大きいが、デメリットの方もそれなりにある。ハーレムにいることも、その一つだ。
二人はまだ気が付いていないが、二人の間には楔が打ち込まれてしまった。
その事を利用しようとする人間が、外で騒ぎ出すのは間違いなかったのである。




