詰め人生・マリアンヌ③
「マリアンヌ様。一体どういったご用件でしょうか?」
「リュカ様のことです。それも、私たち全員に関わることですのよ」
リュカとの一夜を、ただ寝て過ごした翌日。
すっきりした顔で部屋を出て行くリュカを見送り、マリアンヌは次の一手を打つ事にした。
それは「他の妻達にも夜の生活を控えさせる」という提案だ。
リュカの心理状態を考慮し、他の妻との関係を良好に保つ為、この件でマリアンヌは積極的に動くつもりだった。
マリアンヌは昨夜のリュカの様子を話し、今のリュカには心理的な負担が重くのし掛かっていることを説明した。
「……私たちはご迷惑、だったのでしょうか」
マリアンヌの説明を聞き、リュカへ過剰な愛を注ぐディアーヌは目に見えて落ち込んだ。
彼女自身にも思い当たる節があり、マリアンヌの説明で何故そうであったのか納得してしまったからだ。
「ディアーヌさん。貴女一人に責任はありません。皆で、少しずつ負担を強いてしまっていたのです」
「マリアンヌさん……」
落ち込むディアーヌを、マリアンヌはすかさずフォローする。
実際、言っていることは間違っていない。
「貴女だけが負担になっているのではなくて?」
「その可能性は否定しません。ですが、私の言葉もまた、否定しきれるものではないと思いますよ」
「ええ、そうね。その通りだわ」
セレストはマリアンヌの言葉に否定的だ。
ただ、この場で決定的に対立するほど互いに溝はなく、ただ可能性を指摘しただけ、この場の主導権争いをしているだけのようだ。
この集まりはマリアンヌが主導したものなので、この話がそのまま進めば妻の中でマリアンヌが一歩先んじてしまう。
それを警戒しているというのが、先ほどの指摘をした理由だ。
そしてコレット。
彼女はいつものように受動的だ。特に発言はせず、大人しく出された紅茶を飲んでいる。
彼女は結果、結論だけ貰えればそれで良いらしい。
「リュカ様の夜にお休みを入れましょう。1周するごとに1日。今の自由が無い状態が変われば、心の負担は大きく減ると思いますの」
夫婦の生活で、心理的に相手を追い詰めることはかなり良くない。
このハーレムにいる侍女達の中にはリュカの妾候補だけではなく、既婚者で色々と見聞きしてきた経験豊富なベテランもいる。
そういった女性からのアドバイスを受け、それぞれがリュカと上手くいくようにマリアンヌは調整を行う。
「自分の意見」ではなく「侍女の助言」をベースにするといった体裁を取り、話し合いの主導権を若干手放すマリアンヌ。
彼女は他の妻達の面子を潰さないように気を遣いつつ、リュカの為に動くのだった。