子供と未来のために①
マリアンヌ妊娠の方を受け、帝国側から一通の手紙が届く。
「今後の、子供の扱いについて?」
「はい。陛下からの提案です」
嫁四人。それぞれ子供ができたことで、そろそろ帝国としても本格的に子供の扱いについて協議を結んでおきたいというのが手紙の内容だった。
リュカに嫁を送り出したのは、帝国の次の世代、子供が欲しかったからだ。
それは愛情や慈善などではなく、国としての判断だ。
リュカ本人とのつながりを強めつつも、それ以上に帝国千年の安定を見越しての策である。
「ここで育てられるのは、多くても8人までか……」
そして、話し合う内容を草案として事前にまとめたものも付いていた。
今度行われる本会議の前に、妥協点を見出すための事前交渉をするとなっている。
本番でリュカがあまりにも難色を示すようでは皇帝の、帝国の権威に傷が付いてしまうので、事前に話をしておき、リュカが皇帝の言葉にすんなりと従ったという体を取りたいのだ。
だから書かれた内容は帝国側の要望であり、それで本決まりという訳ではない。リュカの意を汲み、譲歩するとは言っている。
だが、逆にリュカにも多少の譲歩を求めるとも言っている。
まずは子供を8人までリュカの手元で育てることを許可すると言い、その後については帝国の、専門の者に任せることを望んでいると締め括られていた。
ある程度の数の子供を帝国に対し従順に育てたいという意図を、はっきりと言っていた。
帝国側の要求は、リュカにとって妥協できるかどうか微妙なラインであった。
リュカにとって子供とは愛情を注ぐ相手であるため、可能な限り自分のそばで育てたい。家族とは一緒に過ごすものなのだ。
それを許されないことの感情的な問題がどれほどなのか、自分でも把握できていない。
付け加えるなら、子供をきちんと育てられるかどうかは未知数だ。
コレットの娘のクロエは、母を求めて魔力量任せの魔法を使うなど、リュカやコレットがいなければ相当の被害を出しかねない娘でもあった。
親から引き離すのが正解とは言い難い。
子供がある程度育った後になれば、子供はより親に執着する可能性がある。
育ったら安心とも言い切れない。
お互いに、未知を抱えた交渉だ。
妥協点、現実的な落としどころ。お互いにそれらが見えているとは言い難い。
子供の育ち方なんて、決まった形など無いのだ。
今この時点で、話し合いがどうなるのかは誰にも分からなかった。




