次なる一手③
リュカはマリアンヌから仕事が無いと言われたが、そこで「はいそうですか」とはならない。
こうなる事を全く考えていなかったわけではない。
むしろ考えていたから、最初に侍女へと話を持って行ったのだ。
最初からなんでもうまくいくと考えるほど、リュカは楽観的な見方をしていなかった。
では、どうやってマリアンヌと仕事をするか。
これについては他の嫁と協議しつつ進めれば良いとなる。
むしろ、他との調整を理由に断られるのは想定内であり、他との調整を理由に断らせるのが目的だった。
「他と調整しなければ仕事が無い」と言わせたのであれば、「他と調整すれば仕事がある」という意味と解釈できるので、そこからマリアンヌの選択肢を奪うように動けた。
つまりマリアンヌは言質をとられたのだった。
話が他国との調整となると、そこを仕切るのはディアーヌだ。
立場が一番上の人間であり、子を産んだことで帝国の中でも発言力が高まっている彼女であれば、調整はさほど難しいことではない。
むしろ、この一件でリュカとの時間が増えることは彼女にとっても望ましく、率先して関わるようになった。
ディアーヌが関わったことで、彼女のマリアンヌへの嫉妬は緩和された。
全く無くなったわけではないが、マリアンヌ優先であった時よりは当たりがずいぶん和らいでいる。
これはリュカも全く考えていなかった副次的な効果であり、マリアンヌは束の間の穏やかな時間を取り戻すのであった。
「大規模な工事の期間短縮依頼がほとんどとは思わなかったよ」
「平時であれば、そんなものかと思いますわ。旦那様」
ディアーヌを通して伝えられる仕事の依頼だが、そのほとんどは工事関係、さらに言うなら治水ばかりであった。
これは不思議な話ではなく、どの国も食料生産に余裕を持たせるため、農地の確保に躍起になっていたからだ。
数年前とはいえ、帝国内で大規模な反乱があり、多くの流民が発生している。
また、最近もマリアンヌの国が余所から攻められていて、仕事を失った平民というのは意外と多い。
そんな彼らの新たな仕事先として開拓が進められることはもちろん、軍事行動で消費された各国の備蓄を補充するためにも生産に余裕を持たせたいのだ。
帝国全体を見れば飢えるほどではないが、余裕も無いのだ。
戦争の影響がなくとも、人が増えれば受け入れ先は必要であり、結局は新しい土地を切り拓くことになる。
今現在人が住んでいるところだって、河川の氾濫対策が万全でない土地などいくらでもある。
そして、どうせ依頼をするなら、同系統の仕事でまとめて同じぐらいの利益を得られるようにする方が調整をしやすい。
リュカの仕事に治水が多いことはそういう理由があった。
それに、だ。
ディアーヌは一応だが、マリアンヌの応援もしている。
早めにリュカが仲良くなろうとすることを終わらせ、自分との時間を確保してほしい。そんな理由で、だったが。
マリアンヌの母国は海沿いの国である。
河川もそこそこあるため、川の氾濫とは切っても切れない関係にある。
治水はリュカがマリアンヌに感謝される、一番の仕事になるであろう。




