次なる一手①
リュカの意気込みは分かったが、次に考えるべきは「何をするか」である。
リュカはこれまで、嫁たちの趣味に合わせて観劇をしたり、演奏家達の音楽を来たりしてきた。
何もしてこなかった訳では無いのだ。
ちゃんと嫁に対し歩み寄り、リュカなりに分かり合う努力を重ねてきた。
そして嫁の側もリュカに食事を振る舞うなど、嫁の側もリュカに寄り添おうと動いていたのだ。
リュカ達は互いを尊重していた。
ただ、それだけでは足りなかったというだけであったのだ。
そこに更に何かを重ねるのだとすれば、それは自分たちだけでどうにか出来る事ではない。
自分たちなりに動いてダメだったのだから、新しく誰かに相談すべきであろう。
「――と、言う訳でして。知恵をお貸し願えないでしょうか?」
困った時の、親頼み。
リュカが頼った先は、マリアンヌの両親と、彼女を世話してきた“育ての親”であった。
この突然の相談に、マリアンヌの両親――現王太子夫妻――は渋面を作った。
マリアンヌは、リュカの子を産む事を条件に送り出した娘である。
その娘が深層心理下とは言え、子を産む事を拒否するようでは、何の意味も無い。むしろ周囲の期待に応える気も無く大公国の持っていた「リュカの嫁」という枠を消費する分だけ害悪である。
期待に応えようとしない自分の娘に対し、情けないという気持ちを持った。
そもそも、リュカの嫁になると言いだしたのはマリアンヌであった。
それはリュカの子を産むという意味であり、それを理解していなかったとは言えない。
動機については思うところがあるものの、本人がやる気を出している以上は親として応援しようという気持ちがあり、次期公王の立場で娘を送り出した。
だと言うのに、いまさら子を産みたくないとは何事だという憤りすら感じていた。
そんな中でも、リュカがこうして自分たちに会いに来て、マリアンヌとの仲を取り持って欲しいと頼んできたのは、問題だらけのマリアンヌの行動の中で唯一の救いであった。
最低限、リュカとの間に絆を結ぶ事までは成功しており、こうして気にかけてもらえているのだから。
これでリュカに見放されてしまうようであれば、たとえ実の娘であっても切り捨てねばならないところであった。
「娘の興味が向いている事、趣味に関わる事であるが。別に、趣味にこだわる必要も無いのではないかな。
むしろ、仕事の面でマリアンヌとともに歩むパートナーとしての立場を得る事の方が、婿殿もやり易いように思う。
感情面よりも実益を中心とした仲間意識の方が分かりやすいであろう」
王太子であるマリアンヌの父は、リュカに対しもっと仕事面での付き合いをしていく事を勧めた。
すでに趣味で歩み寄りをしているのだから、趣味以外の付き合いを持つ事でより深い仲間意識を持ち、距離を縮めれば良いと助言をする。
「女性に限らず、人は苦境から助けて貰う事に感謝する生き物です。
相手が何に苦しんでいるかを考え、そこからどう助けるかが仲良くなる秘訣ですよ。そして高い立場にある者は、たいてい何らかの問題を抱えているものです。
娘の現状を周囲から聞き取り、どこか手助けをすることでより仲良くなれるでしょう」
王太子妃は、一緒に何かするのではなく、助けになるように動きなさいと助言した。
夫である王太子の意見とはやや近いが、仕事方面で頼りになるところを見せれば良いし、そういった機会は多くあることを教える。
どちらも、助言としてはごくありふれた意見である。
しかし、これまでリュカがやってこなかった事でもある。
リュカは二人に感謝し、次の一手を考えるべく情報収集を始めるのだった。




