ディアーヌは八つ当たりする
リュカがマリアンヌと一緒にいるころ。
ディアーヌの機嫌はひたすら悪かった。
マリアンヌがリュカの子を産まなければいけない事は分かっている。
マリアンヌとは仲が悪くないので、彼女にもリュカの子を産んでほしいという思いもあるのだが。
それでも、リュカが他の女と一緒にいるのは面白くない。
矛盾しているようだが、人間の感情などそんなものである。理屈ではないのだ。
「ディアーヌ様。お茶をお持ちしました」
ディアーヌがリュカたちの事を考え落ち着かなくなっていると、侍女がお茶を持ってきた。
侍女は少しでもディアーヌに落ち着いて欲しいと、リラックス効果のある茶葉を使ったお茶を淹れている。出産後のディアーヌだが、そろそろ第二子の妊娠を考えていい時期である。少しでも気分を良くしてほしいという彼女たちの気遣いだ。
ディアーヌは侍女の気遣いに心の中で感謝すると、嫉妬を理性で無理矢理押さえつけ、自分のするべき事を考える。
「こちらの情報を欲しがっているネズミ達はあれで終わりではありません。別のネズミが次を狙っています」
ディアーヌは今、ハーレムから情報を抜き取ろうとする密偵の洗い出しを行っている。
セレストの妊娠情報が流れる前後で、多くの密偵・工作員がハーレムに送り込まれた。
身元確認がされてはいたが不十分で、ちょうどディアーヌ達が機能していない隙をつかれてしまっていた。
今後はそういう事が無いようにと、ディアーヌは新人侍女たちの家の情報を洗っている。
年単位で過去の情報を見直すのだが、中央に寄せられた情報では改ざんの恐れがあるため、近隣他家から情報を聞き取り、手元の情報と差異が無いか確認している。
人の記憶は不完全だが、だからこそ余計に嘘が暴きやすくなるのだ。
「あら。この家は怪しいですね。人を送ってください」
ディアーヌは得られた情報から感じた違和感をもとに、次々と人を送り込む。
冷静な時であれば見逃してしまう違和感も、嫉妬と怒りに燃えるディアーヌは容赦しない。些細な粗まで追求し、多くの家が余罪を追及されてしまうのであった。
なお、本人はいたって冷静のつもりであり、八つ当たりしているという意識はない。
悪い事をすれば叱られると、その程度にしか考えていなかった。




