情報流出⑤
最初にリュカが気が付いたのは、サボりの侍女がいた事だ。
仕事が多くなった事は分かるが、監督する熟練侍女の目が行き届かなくなったので雑談をしているのだろうと、その時はその程度に考えていた。
しかし、それが何度も続けば風紀の乱れと判断する。
同じ人間が同じように、何度も雑談に興じているというのなら、さっさとクビにしてしまうべきだとリュカは考えた。
リュカのハーレムは多くの募集がかかる人気の職場であり、他者を押しのけてここに来ている。
そして紹介した貴族が一定以上の技量と人格を持っていると保証してくれているというのに、仕事を常習的にサボるなど真剣さが足りない証拠である。
紹介者の顔を潰すような人間は信用できないという訳だ。
だからクビにする為に、マリアンヌやセレスト、その直属の侍女といった上司に報告するためにも、証拠として会話内容を盗み聞きしておくことにしたのだが。
「駄目だな。この女は」
内部情報を漏らしている事を知ってしまった。
一つ一つは他愛ない雑談という内容であっても、こうやって中の話を外に漏らすようであれば、話してはいけない内容すらいずれ話すようになるだろう。
「これぐらい大丈夫」という考えは通用せず、駄目だと言ったら駄目なのである。
言われたことは最低限守らなければいけないし、もし違反したいとしても事前確認をするべきなのだ。
この場合、許可が下りる可能性は全く無いのだが。
情報漏洩は、侍女や護衛として絶対にやってはいけないルール違反だ。
つまりサボりの彼女は侍女という職に就く者として、最低限守るべき規範が備わっていない。
仕事先の情報を漏らさないという、たったそれだけの事すらできない侍女など要らないと、ただクビにするだけで済ませるわけにはいかないと、リュカは冷たい覚悟を決めた。
リュカが気にしたのは、どこまでの情報が外に漏れたか、である。
そして誰に情報が流れたかだ。
まずはそこをはっきりさせないと動きにくい。
リュカは侍女の話し相手を務めた出入りの業者を覚え、その後を追うことにした。
とは言え、相手の位置を常に把握し、会話を盗み聞きするぐらいはどこでもできるリュカである。
リュカ自身はハーレムから出なくても、常に魔法の監視を続けられるのである。
出入りの業者、密偵は監視にまったく気が付かず、黒幕までリュカを案内するのであった。
もちろんこの情報漏洩をした侍女は一人になったところで拘束され、これまでどんな情報を外に漏らしたのか、確認されることになる。
リュカのようなごく一部の例外を除き、情報のやり取りには時間がかかる。
ここで侍女を拘束して話を聞こうが、相手がそれを知るのは先の話でしかない。
時間的猶予は、全く問題無いのである。
この侍女と、侍女を紹介した貴族と、その関係者。
洗い出すべき情報が多いため、手早く話を聞くことになるのであった。
サボりと雑談。ただの出来心、ちょっとぐらいという油断。
その対価はどこまでも大きい。




