情報流出①
リュカのハーレムは、人の出入りがかなり制限されている。
そもそもハーレムというのは男子禁制で、リュカ以外の男が入れないだけでなく、女性ですら身元がハッキリしない場合は侵入しようとしただけで物理的に首を刎ねられる。
これは人足にすら適用され、屋敷内への荷物搬入すら、貴族の子女が行っている。
荷物搬入に駆り出される彼女達は貴族家の五女や六女といった、嫁ぎ先が無い者達である。
つまり、身元がハッキリしているというだけであり、素行に関してはそこまで細かく調査されない。
ある程度の能力があり、過去に問題行動を起こしていないという事までは調べられるが、わりと簡単に買収される者達も僅かだが混じってしまうのだった。
「ふーん。じゃあ、ジェラール様は凄い魔力持ちだけど魔法を使わないんだ」
「そりゃあ、当たり前じゃない。クロエ様の方が変なのよ」
「まぁねぇ。赤ちゃんのうちから魔法を使うなんて話、私も聞いた事がないもの」
「そうそう。あ、分かっていると思うけど」
「ええ。“ここだけの話”よね。分かっているわ。外で話したりしないわよ」
荷物の搬入時。
その作業を担当するのは、ハーレムの中と外からそれぞれ一名。
運び込む物資はそこまで量がないため、それぞれの上司から一人で充分だと思われたのだ。
二人は手分けをして荷物を運ぶ。
そうたいした量でなかった事もあり仕事の方はすぐに終わったのだが、中の侍女は監視の目が無い事を幸いと、勝手に休憩時間を作っていた。
仕事に時間がかかった事にして、雑談に華を咲かせているのだ。
最初の方から、この中の侍女は仕事関連の愚痴を外の侍女に漏らす。
“ここだけの話だけど”と前置きをして、相手の知らない世界の話を自慢げに語っていた。
体裁こそ愚痴ではあるが、そんなところで自分が働いているんだぞと言う上から目線の語りは、聞く側にとっては不快な話のはずだった。
だが、外の侍女はそんな嫌みったらしい愚痴話でも構わず、適度に相づちを打って続きを促していく。
そうやって、情報を引き出していくのだ。
「あら。そろそろ戻らないと、サボりがバレるわよ」
「え? そう? はぁ。しょうがないか」
そうやって話を聞いていた外の侍女だが、話を適当なところで切り上げ、自主的な休憩を怪しまれない程度に留めている。
釘を刺す事も忘れない。
「今回は私だから付き合ってあげたけど。あんまり他の子を愚痴に付き合わせない方がいいわよ。
最悪、上に報告されて終わっちゃうから」
「こっちだって人を選ぶわよ。信頼できない相手に愚痴なんて言わないわ」
「そう。じゃあ、またね」
「ええ。またね」
ハーレム内の話というのは、一から十まで機密扱いになる。
当然、外に漏らしていい話ではない。
で、あるのに。一部の侍女はそれを無視し、都合の良いように解釈し、言い訳をしつつ「これぐらいは良いだろう」と勝手な判断をする。
ハーレム内の話は外に漏れ、こっそりと貴族達の間に流布されていく。
機密は公然の秘密へと変わっていくのであった。




